コリアうめーや!!第142号
<ごあいさつ>
2月になりました。
昨年末の訪韓に引き続き、
1週間ほどまた韓国に行ってきました。
本日帰国という慌しい日程です。
今回の韓国でも美味しいものをたっぷり食べました。
メルマガに書きたいネタがたくさんあって、
嬉しい悲鳴をあげております。
前回のネタもまだ書ききっていないんですけどね。
一生懸命、書いていきたいと思います。
さて、今号のメルマガは年末訪韓時の第3弾。
とある先生宅で究極の韓国料理体験をしてきました。
これまでのイメージがひっくり返るような衝撃。
その驚きと感動をぜひお伝えしたいと思います。
コリアうめーや!!第142号。
韓国料理の新たな世界を見る、スタートです。
<韓国料理の極みは磨ききった手料理にあり!!>
話は2003年5月から始まる。
僕らはソウルのとあるビル入口付近で待機していた。
約束の時間までは、まだ少しある。
頃合を見計らって中に入ろうと思っていたところ、
その脇をパタパタとすり抜けていった女性がキュッと立ち止まり、
振り返って、
「もしかして八田くんかな?」
と言って、にっこりと笑った。
不意をつかれた僕はうまく反応できず、
「は? あ、や、は、はあ!」
という全面的に慌てた感じで答えた。
いや、実際には答えにすらなっていなかっただろう。
口から何か音付きの空気が漏れたという程度だ。
瞬間的に僕が思ったのは、
「このおばさん、なんで僕のこと知ってるの?」
ということであった。
なにしろここは韓国のソウルである。
いくらかつて留学生として暮らしていたとはいえ、
道でばったり出会うほどたくさんの知り合いはいない。
呆然としていると、女性は僕の腕をポンポンと叩きながら、
「すぐわかったわ。あたしが今日の先生よ」
とだけ言うと、そのまま小走りにビルの中へと入って行った。
僕は結局、勢いに飲まれて何も言えず、
頭の整理がうまく追いつかないまま女性を見送った。
パク先生との出会いはこんな感じであった。
今だに、なぜ先生が僕に気付いたのかわからない。
大勢の人が出入りするビルの入口だし、
僕らも僕らで数人が一緒に集まって待っていた。
女性特有のカンだったのだろうか。
先生は顔を見た瞬間にわかったとおっしゃっていたが、
僕の顔とは、そんなに事前のイメージ通りなのだろうか。
今もって非常に悩ましい出来事である。
このとき僕はテレビの取材を受けるため韓国に来ており、
そのビルでは友人たちとキムチの漬け方を習う予定だった。
韓国に興味を持つ日本人の特番を作りたい。
番組のプロデューサーは企画段階で僕にそう言った。
僕のほかにも数名の日本人が取材を受けていたようだ。
結局、番組自体は事情があってお蔵入りになったが、
僕にとっては今につながる意義ある企画だった。
パク先生は丁寧にキムチの漬け方を教えてくださり、
またそれと同時に手作りの海鮮鍋を作ってふるまってくれた。
そのときの印象はにこやかで優しい先生というだけだったが、
実は韓国でも指折りの、有名な料理の先生だった。
何もこのときに限ったことではないのだが、
「うわ、すごい人だったんだ!」
と後から驚くことが、僕の人生にはままある。
周囲から「無知と失礼が服を着ている」と叱られるゆえんだ。
先生と2度目にお会いしたのは翌2004年7月。
このときは先生の料理スタジオで夕食をご馳走になった。
これもまた後から知った話なのだが、
先生の旦那さんと、僕の知り合いが高校時代の親友だった。
一緒に訪ねて行ったところ大歓迎して頂き、
手料理でもてなしてくれたという次第である。
さりげなくだがこの話はメルマガ第91号にも書いており、
第4位にあげたタッペクスク(鶏の水炊き)がそうだ。
第91号2004年これがうまかったベスト10!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume91.htm
折りしもこの日は伏日(ポンナル)の前日。
伏日は日本で言う「土用の丑の日」に相当し、
韓国ではウナギの代わりに、犬料理や鶏料理を食べる習慣がある。
夏バテ防止のスタミナ料理でもてなしてくれたという訳だ。
その後も、取材で出かけたときにコメントを頂くなど、
何から何まで、お世話になりっぱなしという先生である。
とてもじゃないが、ソウルには足を向けて寝られない。
そして昨年12月の訪韓でもパク先生を訪ねた。
目的はもちろん『魅力探求!韓国料理』完成の報告である。
これまで学んできたことを、ようやくひとつの形にできた。
その成果を先生はストレートに喜んでくれた。
そして、また盛大な夕食でもてなしてくれたのである。
長くなったが今回はその話をテーマにしてみたい。
先生が手ずから作ってくださった料理の数々。
それだけでも感動的だが……。
そこには次元の違う、極められた韓国料理の姿があった。
「本日のメニューを発表します!」
キッチンで作業をしていた先生が登場し、
紙にプリントされた、メニュー表をどんと見せる。
この日の参加者はもろもろ集まって8名。
座って待っていた7名から、待ってましたと歓声があがる。
今日は冷蔵庫に何もないのよ、と言っていた先生だが、
フタを開けると、飲食店顔負けのコース料理になっていた。
いずれも素晴らしい料理だったので、
最初から1品ずつしっかりと語ってみたい。
1品目:麦粥(ポリジュク)
2品目:カブの水キムチ(スンムムルキムチ)
3品目:海産物の冷製(ヘムルネンチェ)
まずは前菜といったところ。
最初に少量の粥を出すのは韓国料理の基本。
眠っている胃を揺り起こし、食欲を増進させる。
しかもこの麦粥はただの粥でなく牛乳仕立て。
麦の香りと、牛乳の甘さが舌にも胃にも優しい。
先生の人柄を表すかのような1品目である。
引き続いての2品目はカブの水キムチ。
韓国では大根に比べ、カブは珍しくあまり食べない。
江華島を始めとした地域キムチの食材として知られる。
そして3品目は海産物の冷製。
新鮮なエビとタコを、たっぷりの野菜と和えている。
もちろんドレッシングも先生の手作りだ。
これらの料理を楽しみながら、飲んでいるのは先生秘蔵の赤ワイン。
料理とワインの相乗効果で、幸せ気分が無限大に増幅される。
4品目:足醤果(チョッパル)
5品目:ツブ貝の和え物(コルベンイ)
このあたりからだんだん衝撃の度合いが増してきた。
「足醤果」というのは豚足を醤油煮にしたもの。
いわゆるチョッパルだが、少し気取って漢字にしたそうな。
「醤果」というのは宮中用語でチャンアチのこと。
野菜などを醤油漬けにした料理の総称である。
厳密には違うのだろうが、雰囲気としてはいいネーミングだ。
韓国では豚足をよく食べ、焼酎のつまみにもよく合う。
市場などでも売られる、庶民的な料理ではあるが、
宮中用語で書くと、高級な料理にも思えてくる……。
と、思っていたら本当に高級でびっくりした。
いわゆるチョッパルとは違い、味付けが実に上品だ。
よく煮込まれているが、味が濃いというより旨味が濃い。
特にさらっとした甘味が、口に爽やかである。
「これ、本当にチョッパル?」
と、口をついて出た言葉が、この後も連続する。
5品目に出たツブ貝の和え物も庶民的な料理。
居酒屋などでは定番の1品として出てくるもので、
茹でたツブ貝と生野菜を唐辛子で辛く和えている。
辛いので一緒に素麺などを混ぜ込んでも美味しい。
「東海岸から直送されたツブ貝を使ったからね」
という先生の言葉に、思わず手を伸ばすと、
その澄み切った美味しさにまた固まる。
「これ、本当にコルベンイ?」
これがコルベンイだとしたら今まで食べていたのは何だろう。
何か別の料理を食べていたのでは、と思えるほど美味しい。
もちろんツブ貝そのものが新鮮なのもあるだろう。
プリプリと歯触りがよく、かつ抵抗なくぷっつり噛み切れる。
甘辛く、ほんのりと酸っぱい味付けもギリギリなので、
ツブ貝本来のうまみを邪魔せずに味わえる。
おそらく料理に使われている素材のみならず、
調味料、香辛料も吟味され尽くしているのだろう。
見た目は同じだが、到底同じ料理に思えない。
料理そのものの評価が、自分の中で大きく変わった。
6品目:トッカルビとサラダ
7品目:豆ごはんとおからのチゲ(ピジチゲ)
トッカルビがこの日のメイン料理。
牛カルビ肉を叩き、柔らかくした焼肉である。
叩くと言っても、ひき肉ほど細切れにはせず、
カルビらしさを残しつつ、食感だけを柔らかにする。
ひと手間かけた焼肉、という感じの料理だ。
見た目だけだとハンバーグにも思えるが、
食べるとしっかり焼肉なのが面白い。
シメとなるのは豆ごはんに、おからをたっぷり入れたチゲ。
そこにキムチ2品と塩辛が1品ついた。
おからのチゲというのが少し想像しにくいかもしれないが、
韓国ではポピュラーな家庭料理のひとつである。
下味をつけた白菜と豚カルビを丹念に炒め、
ファンテ(干ダラ)でとったスープと、おからを投入。
この日は水に浸した大豆をミキサーにかけ、
どろどろにした状態のものをそのまま加えた。
豆腐を作った残りのおからを有効に活用できる料理だが、
この料理をメインに作るときはそのほうが美味しい。
薄味に仕立てられているので、大豆のコクと甘みがよくわかる。
食感もふわっと柔らいため、よりまろやかに感じる。
「これ、本当にピジチゲ?」
食べるごとに、過去の記憶が曖昧になる。
同じ料理でありながら、記憶とうまく像を結ばない。
目の前にある料理が格段に美味しすぎるのだ。
そして最後にはデザートが出てくる。
8品目:柚子の蜜漬け(ユジャチョンチュモニ)
これがまた手間と時間をたっぷりかけたものだった。
柚子の皮をむき、中をくりぬいて具を詰め、
シロップに漬けて半月ほど冷蔵庫で寝かせてある。
具として入っているのは、栗、ナツメ、イワタケ、
そして柚子の中身などを細かく刻んだもの。
8等分されているので、見た目はケーキのようでもある。
爽やかな甘さに、詰められた具の軽快な食感。
そして、柚子の清涼な香りがぷんぷん立ち上る。
「韓国料理にこんなデザートがあったのか」
最後まで衝撃を受けっぱなしの夕食であった。
僕がこれまで食べてきた料理は主に飲食店の料理である。
美味しいものを出すというのは店の使命だが、
商売でやっている以上、採算という大きな壁がある。
食材にかける費用や、人件費、光熱費など。
それを考えると、飲食店での料理には限界があるのかもしれない。
最高の食材を用い、調味料、香辛料も吟味し、
長年かけて技術を習得した人が、丁寧に調理をする。
そしてこの日の料理には先生の気持ちも込められていた。
それは飲食店の料理とは一線を画すものだろう。
どんなに高級な料理店に行っても食べることのできない、
究極の韓国料理を、この日味わうことができたように思う。
韓国料理はまだまだ美味しくなる力を秘めている。
そう思えただけでも、非常に大きな収穫であった。
それを教えてくれたパク先生に深く感謝をしたい。
<お知らせ>
先生の手料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『魅力探求!韓国料理』が好評発売中です。
たくさんの媒体に取り上げて頂いたおかげで、
ラジオ出演などの話も舞い込んでおります。
慣れない仕事ですが、精一杯頑張りたいと思います。
アマゾンなどでも好評予約受付中です。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4093103984/
※中身が見たい方は小学館の立ち読みページをどうぞ!
http://tachiyomi.webshogakukan.com/mekuri/4093103984.html
※韓国の中央日報で「魅力探求!韓国料理」が紹介されました!
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=83446&servcode=400
※北海道新聞で「魅力探求!韓国料理」が紹介されました!
http://www5.hokkaido-np.co.jp/books/new/visit.html
※統一日報で「魅力探求!韓国料理」が紹介されました!
http://www.onekoreanews.net/news-bunka03_070124.cfm
※読売新聞で「魅力探求!韓国料理」が紹介されました!
http://www.yomiuri.co.jp/book/review/20070125bk03.htm
<八田氏の独り言>
ソウルに足を向けて寝られない。
そんな理由から、自宅ではずっと北枕です。
コリアうめーや!!第142号
2007年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com