コリアうめーや!!第96号
<ごあいさつ>
3月になりました。
そろそろ春の訪れが感じられる頃です。
北風や木枯らしの姿が見られなくなり、
春一番や、南風が手を振ってやってきます。
普段交わす会話の中からは、
ブルブルや、ガタガタが消え去って、
ポカポカや、ヌクヌクが登場するでしょう。
寒い冬から、暖かい春へ。
季節が移動してゆく3月です。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
春らしい装いとはまったく関係なしに、
どうしたことか裏舞台にスポットを当てて見ます。
僕自身が、韓国料理を楽しむうえで、
必要不可欠となる、縁の下の力持ち的存在。
派手な魅力はありませんが、
食べるとホッとできるあの料理です。
コリアうめーや!!第96号。
感謝をこめつつ、スタートです。
<ウドンが救う僕の繊細なる胃腸!!>
友人に「鋼鉄の腸」の異名をとる人がいる。
何を食べてもお腹を壊すことはない。
どんなものでも、きちんきちんと消化し、
必要な栄養を摂取した上で、不要なものは排泄する。
食べつけない特殊な食材でも大丈夫。
韓国料理にありがちな辛いものでも大丈夫。
多少古いものでも大丈夫だそうな。
丈夫を絵に描いたような人物で、
まったくうらやましい限りだ。
対して、僕は「ガラスの胃腸」と呼ばれている。
なにしろお腹は壊れているのが日常。
どんなものでも、まともに消化された試しはなく、
必要な栄養どころか、すべて液状でだだ漏れである。
ちょっと変わったものを食べると駄目。
韓国料理の辛さは入口でよくても、出口で駄目。
多少古いものなど、もってのほかである。
軟弱とは僕のためにある言葉だと思う。
まったくもって情けない。
好き嫌いが多くて、胃腸が弱い。
コリアン・フード・コラムニストというのは、
僕にとって苦行にも等しい職業だ。
思えば、この厳しい生活が始まったのは99年秋。
僕が韓国に留学した年からである。
右を見ても韓国料理。左を見ても韓国料理。
食べれば食べるほど胃腸は壊れ、出口は常にだだ漏れっぱなし。
言葉の難しさに頭を抱えつつ、同時に腹も抱えるという、
なんとも複雑で、慌しい生活を送っていた。
一番つらかったのは学校生活である。
トイレと親しい関係にある人ならわかると思うが、
急な腹痛でいちばんつらいのが授業中である。
トイレに行こうとしても、先生に一言断らねばならない。
だが、その一言はかなり言いにくい。
「先生、トイレ行っていいですか?」
の一言で、クラス中に「八田=ウンコ」が知れ渡ってしまい、
小学校時代なら、次の時間からあだ名がウンコマンになる。
従って、授業中のトイレは限界まで我慢しなければならない。
だが、この臨界点の見極めは非常に難しい。
実例として、高校時代の話を紹介しよう。
あれは、高校2年生の英語の時間。
僕はいつものように深刻な腹痛と闘っていた。
限界はすでに近く、授業の残り時間からしても、
最後まで耐え切ることは不可能だと思われた。
「いつ、先生に切り出すべきか……」
先生が説明をしているうちは、切り出すのが難しい。
説明と説明の合間、一呼吸あいたときが狙い目である。
僕はタイミングを待ち、一瞬の静寂を逃さず敢然と手をあげた。
「せ、先生っ!」
静かな教室に響き渡る僕の声。
クラス中の視線が、僕の席に集まる。
「はい。八田くん」
「ト、トイレ行っていいですかっ!?」
悲壮な声。切羽詰った表情。
たいていそれで、先生は状況を察し、
渋い顔をしながらも、トイレ行きを許可してくれる。
だが、次の瞬間。
意外な事態が僕を襲った。
なんと、教室中が爆笑の渦に包まれたのである。
僕はトイレ行きたさで、何も耳に入っていなかったが、
教室が一瞬静寂に包まれたのは、
「では、この場合はどうなるかわかる者?」
と、先生がみなに問いかけたからだったのだ。
先生問う。生徒黙る。八田手をあげる。
お、八田はそんなに積極的な生徒だったか、というところで、
「ト、トイレ行っていいですかっ!?」
タイミング最低。赤っ恥もいいとこ。
トイレから帰ってきた僕に、前の席の友人が、
「いやぁ、手をあげて答えるなんて、やる気あるなぁと思ったよ」
と、ニコニコしながら僕に言った。
僕は黙ってうつむくしかなかった。
韓国に留学していた頃も、僕は常に闘っていた。
韓国の語学学校では、授業が9時に始まり1時に終わる。
この1時に終わるというのが意外に曲者で、
12時からの1時間は、空腹で悶え死にしそうになる。
普段から12時頃に昼食をとる習慣が身についているため、
たった1時間が、狂おしいほど我慢できないのだ。
1時までお腹をもたせるには、しっかり朝食をとればよいのだが、
朝から韓国料理をワシワシ食べるというのも、またつらいところ。
食べたら食べただけ、腹痛に悩まされることになる。
先生問う。生徒黙る。八田手をあげる。
お、八田はそんなに積極的な生徒だったか、というところで、
「ファジャンシル カドテヨ(トイレ行っていいですか)?」
という、高校時代の再現は絶対に避けたい。
朝食にどんなものを食べるかというのは、
留学当初の僕にとって、もっとも重要な懸案事項だった。
もろもろ検討した結果、辛くなく、量もほどほどで、
ある程度腹持ちもよいものは、ウドンしかないとの結論に達した。
韓国にもウドンがあり、同じく「ウドン」と発音する。
カツオブシではなく煮干でダシをとり、
醤油はあまり入れずに、あっさりと仕上げる。
どちらかというと関西風に近いウドンだ。
味付けが穏やかなので、胃腸関係には極めて優しい。
あたたかいスープというのもプラス材料だろう。
消化がよすぎて、1時まで持つかが微妙なところだったが、
腹痛に苦しめられるよりは、空腹のほうがよっぽどまし。
よって、僕の朝食はほとんどがウドンになった。
実は、この留学当初の日記というのが残っている。
3ヶ月で放り投げたので、本当に留学初期のことしか書かれていないが、
この日記には、その日食べたものが3食きちんと記されている。
これを見ると、僕は本当にウドンばかり食べていたのがよくわかる。
例えば、1999年10月の朝食を見てみよう。
土日は学校がないので除くとして、食事回数は全部で21回。
食べたものごとに集計すると、以下のようになった。
1位、ウドン……………………………13回
2位、テンジャンチゲ(味噌チゲ)……3回
3位、スンドゥブチゲ(豆腐チゲ)……2回
4位、その他………………………………3回
あえて比べるまでもなく、ウドンぶっちぎり圧勝。
どこまでもウドンに頼り切っていた。
ウドンがあるから学校に行ける。
ウドンがあるから留学生活を続けられる。
ウドンがあるから生きていける。
僕の留学生活を支えたのはウドンにほかならない。
その後、韓国料理にも段々と慣れていき、
ウドンの登場回数も、比例するように減っていったが、
胃腸を壊したときなどはやっぱりウドンだった。
今でも、旅行中に胃腸が疲れてきたら、
出来るだけすばやく、ウドンに逃げるようにしている。
メルマガでは、脂ギトギトの肉料理や、悶絶激辛料理を食べ、
「う、うまい! 最高!」
などと叫んでいるが、それはあくまでも表の顔。
舞台裏では、
「ウドンは胃に優しいなぁ」
と穏やかな幸せを感じていたりするのだ。
さて、実は今日からまた食べ歩きの旅に出る。
昨年7月以来となる韓国旅行。
今回は、九州を経由して韓国に入るので、
九州と韓国のうまいものを連続で味わうことができる。
美食三昧の記録は、いずれメルマガ、HPを通じて報告するが、
その影にはきっとウドンの功績があることだろう。
「美食の影にウドンあり」
僕はウドンに足を向けて寝られない。
<おまけ>
韓国のウドンにも色々な種類があります。油揚げの乗ったユブウドン(キツネウドン)。オデン種の入ったオデンウドン。小鍋で煮込んだネムビウドン(鍋焼きウドン)などが代表的なところです。食堂や屋台、学生食堂などあちこちで気軽に食べることができ、またウドン専門のチェーン店も数多くあります。ちょっとした繁華街なら必ずウドンチェーンが見つかるので、旅行中の簡単な食事にもおすすめです。もちろん刺激の多い料理に疲れたときは、ぜひ韓国のウドンを試してみてください。
<お知らせ>
ウドンの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『目からウロコのハングル練習帳』は好評発売中。
ハングルが読めるようになった! という喜びの声が多数届いています。
書籍刊行情報
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
表紙紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_008.htm
内容紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_009.htm
<八田氏の独り言>
という訳で、韓国に行ってきます。
今回は釜山をメインに行ってくる予定。
コリアうめーや!!第96号
2005年3月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com