コリアうめーや!!第93号
<ごあいさつ>
なんだか寒い日が続きます。
ぶるぶる震えるというよりは底冷えする感じ。
今年の冬は骨身に染みる寒さです。
韓国であれば、冬はオンドル(床暖房)があるので、
室内はポカポカと暖かいのですが、
日本は室内にいても寒いのが悲しいです。
こたつもヒーターもホットカーペットもいらない。
ただあのオンドルが懐かしい。
そんなことをしみじみ思う今日この頃です。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
第93号と段々大台が見えてきた感じです。
順調に行けば、5月には100号到達。
3月からはいよいよ5年目にも入り、
ここらでさらなる飛躍を目指したいところです。
コリアうめーや!!第93号。
スタミナをつけて頑張る、スタートです。
<単純作業におけるニンニクの喜び!!>
単純作業が好きだ。
冒頭からいきなり宣言するようなことではないが、
好きなものは、好きなのだから仕方がない。
何も考えずに没頭できる単純作業が大好きだ。
韓国料理も好きだ。
今さらあえて言う必要はないかもしれないが、
僕はやっぱり韓国料理が大好きだ。
韓国料理の魅力にどっぷりハマっている。
と、ここまで書いたところで、ふと思った。
「単純作業が好き」「韓国料理も好き」
この好きなもの2つ。融合してみたらどうなるのだろう。
単純計算でいけば、2倍大好き、あるいは大好きの2乗となる。
ただの大好きでは片付けられない、猛烈な大好きになるはずだ。
すなわち、僕は「韓国料理における単純作業」が猛烈に大好き。
本当にそうだろうか……。
と、自分自身を振り返っていると、
韓国料理店でアルバイトをしていた頃の記憶が蘇ってきた。
「そうだ。ニンニクがあったじゃないか!」
韓国料理における単純作業はニンニクが楽しい。
単純作業の主役となるのは、常にニンニクであった。
「単純作業が好き」+「韓国料理も好き」=「ニンニクが好き」
今日はこの公式を証明してみたいと思う。
舞台は東京新大久保にある某韓国料理店。
時刻は客の流れが完全に途絶えた午前4時だ。
すべての始まりは副料理長の掛け声による。
「おおーい、一緒にやろうや」
見れば副料理長は、大きなタライを抱えている。
そうか、例の作業が今日も始まるのだ。
副料理長が抱えてきたタライは、直径1メートルほどの大きなもの。
中に入っているのは、膨大な量のニンニクである。
ニンニクと一緒にぬるま湯がトポトポと注がれており、
タライの中はさながら夏の公営プールのようだ。
運ばれて来る過程ですでに皮がはがれ、
水着が脱げたような状態になっているのもいる。
そう思ってみると、けっこうあられもない光景だ。
混雑した海水浴場のことをイモ洗いと表現することがあるが、
若者の多い浮かれた海水浴場などは、ニンニク洗いのほうが正しい気がする。
これからはイモ洗いとニンニク洗いの両方を活用して欲しい。
話が横道にそれた。
あまり知られていないが、韓国料理店にとって、
ニンニクの皮むき作業は、宿命ともいえる大仕事である。
なにしろニンニクは、どの料理にも欠くことができない必須香辛料。
ないと韓国料理の存在基盤をも揺るがすことになる。
ひとつの店でも信じられないくらいの量を使うので、
その下ごしらえも、同じく信じられないくらいの手間になる。
勿論、皮がむかれたニンニクを仕入れているところもあるだろうが、
味にこだわる場合ならば、やはり皮付きに軍配があがる。
ニンニクは香りが命だ。
「さ、やるぞ」
「はーい」
僕らは椅子に腰掛け、思い思いの方向からタライに手を伸ばす。
後はただひたすら、マシーンのように皮をむくだけだ。
ニンニクの皮をむくのは大変な作業だが、
ぬるま湯につかってふやけた状態なので案外むきやすい。
根元の部分も包丁で軽く切り落としてあり、
コツをつかめばスルッスルッとむくことができる。
ツルンと一発でむけるとちょっと嬉しい。
なかなかむけないと、思わずムキになったりもする。
地味な作業ではあるが、これがなかなかに楽しい。
こういう単純作業が楽しい理由は、いろいろ考えられる。
まず、作業そのものが簡単なだけに、失敗や行き詰まりがない。
仕事がどんどん片付いていく状況というのは、やっぱり素直に嬉しい。
自分という人間が、とても優秀な人材に思えてくる。
仕事に失敗して、自信をなくしたときなどは、
ぜひともニンニクの皮をむくことをオススメする。
自信回復のよいきっかけとなることだろう。
次に、グダグダとおしゃべりができるのも楽しい。
特に集中してやる作業でもないので、手以外は別のことができる。
勿論できると言っても限界があるので、たいていは雑談タイムとなる。
「今日はヒマだなあ」
「ヒマですねえ」
「昨日は忙しかったんだけどな」
「忙しかったですねえ」
「明日はどうだろう」
「どうですかねえ」
などと言った、基本的に意味のない会話が延々と展開される。
この穏やかで和やかな空気がたまらない。
仕事であるにもかかわらず、緊張感がまるでないのもいい。
こうした楽しさは、キムチ作りに共通するものがあると思う。
キムチ作りというのは単純作業の最たるもので、
切るなら切る、混ぜるなら混ぜるだけを、延々とやらねばならない。
それも、キムジャンと呼ばれる冬のシーズンともなれば、
一冬分のキムチをいっぺんに漬けるので、その量は膨大かつ莫大になる。
あまりに大変なので、ご近所同士助け合うのが慣例だ。
今日はあそこの家、明日はどこそこの家、明後日は我が家。
持ち回りでそれぞれ一冬分のキムチを作る。
作業は分担されるので、包丁を持っている人は延々材料を切り、
タライの前に座った人は、延々と材料を混ぜ続けなければならない。
これまた手だけで完結する作業なので、必然的に賑やかな雑談が始まる。
井戸端会議のような空間が、キムチを通じて出来上がるのだ。
ちなみにこのキムチ作りでも、
ニンニクは単純作業の対象として活躍している。
もちろん皮をむくというのもそうだが、
皮をむいたら今度は丹念につぶさなければならない。
フードプロセッサーで、ガーっといっぺんにやれればいいが、
そういう便利なものがない場合は、すりこぎとすり鉢で作業をする。
これがまた果てしなく時間がかかり、
すりこぎを握る手がプラプラになる。
僕の場合は、つぶすよりも包丁でみじん切りにするほうが多い。
これは味云々ではなく、作業的な楽しさを優先した結果だ。
僕はこのみじん切りという切り方が好きで、
すべての包丁作業の中で、いちばん楽しいと思っている。
材料の大きさや形、切り口などにこだわる必要がなく、
ただひたすら材料を細かくすればいい、というのはいかにも気楽だ。
作家、椎名誠は料理となると必ずタマネギのみじん切りから始めるそうだが、
僕の場合はニンニクのみじん切りからすべての料理が始まる。
大人数向けの料理を作るときなどは、まず大量のみじん切りニンニクを作り、
それをすべての料理に少しずつ使用していくというスタイルをとる。
段々取りとめのない話になってきた。
この取りとめのなさも、単純作業の大きな魅力だが、
メルマガまで取りとめなく終わらせる訳にはいかない。
せっかくニンニクの話をしてきたのだから、
最後はニンニクのおいしい食べ方を紹介して締めるとしよう。
韓国ではニンニクを香辛料として使用するほか、
食材のひとつとしても大いに活用している。
代表的なところでは、醤油漬けにしたチャンアチ。
あるいは醤油味に煮付けたチャンチョリム。
シイタケやタマネギなどと串に刺して焼くこともある。
鱗茎の部分だけでなく、茎(ニンニクの芽)も食べる。
ニンニクの芽はナムルにするととても美味しい。
そして、忘れてはいけないのが焼肉との相性のよさである。
焼肉店に行くと、スライスした生ニンニクが大量に運ばれてくる。
生のまま肉と一緒にサンチュで包んで食べてもいいが、
少し炙るくらいに火を通すと辛味が落ち着いて食べやすい。
どちらかと言うと、牛肉より豚肉と相性がいい気がする。
豚肉から染み出る脂を、ニンニクに絡めながら焼くとおいしい。
また、メニューに載るような料理ではないが、
韓国の焼肉店では、注文すると小さな器にゴマ油を用意してくれる。
そこにスライスニンニクをたくさん放り込んで、
肉を焼いている横に、ちょこんと乗せておくのだ。
器のゴマ油は、鉄板の熱で次第に熱されていく。
ニンニクはたっぷりのゴマ油で煮られる形となり、
やがてホコホコとした柔らかい味になる。
鉄板で焼くよりも火がまんべんなく通り、
焦げることもないので、ニンニクの甘さを感じることができる。
ちょっと油を吸ったこってり感も悪くない。
ニンニクの最もおいしい食べ方のひとつだと思う。
なんてことを書いていたら、
無性にニンニクが食べたくなってきた。
そういえば明日は日曜日。
ニンニクの臭いを心配する必要もない。
今夜はニンニクのフルコースにでもしようか。
ニンニクの醤油漬け。ニンニクの丸ごと焼き。
スライスニンニクを浮かべたワカメスープもいいな。
ニンニクの芽は小エビを加えたナムル。
メインに肉を焼いて、その横にゴマ油を用意しよう。
ようし、今夜はニンニク決定!
んじゃ、買い物に行ってきまーす。
<お知らせ>
ニンニクの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『目からウロコのハングル練習帳』は好評発売中。
レシピページ担当の「ハングルスタート6」にプレゼントを出しました。
書籍刊行情報
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
表紙紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_008.htm
内容紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_009.htm
<八田氏の独り言>
手についたニンニクの香りはなかなか落ちません。
キーボードを叩くたびに、ニンニク臭が漂います。
コリアうめーや!!第93号
2005年1月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com