コリアうめーや!!第60号
<ごあいさつ>
9月になりました。
八田氏は韓国ソウルにやってきています。
ここは新村という町のネットカフェ。
久しぶりに旅先からの配信です。
さて、コリアうめーや!!は今回で第60号。
人間でいえば還暦を迎える数字であります。
かわいがっているメルマガにも、
赤いちゃんちゃんこを着せたいところですが、
そうもいかないのでかわりに特集を組んでみました。
韓国料理をテーマにした、
ちょっとお遊びの物語。
コリアうめーや!!第60号。
ほんわかほのぼのとスタートです。
<ビビンバくんの冒険>
ビビンバくんはがんばりやさん。
どうしたらみんなにおいしく食べてもらえるか、
いつも悩んでいます。
そんなある日のことでした。
ビビンバくんは、麺類界のプリンス、冷麺さんに出会いました。
そうだ、冷麺さんに相談してみよう。
そうしたらぼくはもっとおいしくなれるぞ。
「ねえ、冷麺さん。どうしたらぼくはもっとおいしくなれるかなあ」
「うーん、そうだねえ。まずは食べやすさが大事だね。ぼくらの場合はハサミで麺をチョキチョキ切るんだよ。そうすると食べやすくなるんだ」
「そうか、ありがとう冷麺さん」
ビビンバくんは、さっそく実践してみました。
ごはんを盛って、ナムルを盛って。
さあ、お客さんの前に出るぞという直前に、自分の身体をハサミでチョキチョキ。
しかし、もともと細かいごはん粒の集合体であるビビンバくん。
なーんにも起こりませんでした。
「だめだあ、ハサミで切っても何もかわらないや」
悲しんだビビンバくんは、またも悩みます。
どうしたら僕はもっとおいしくなれるんだろう。
そんなある日のことでした。
ビビンバくんは、キムチ村の村長、白菜キムチさんに出会いました。
「ねえねえ、白菜キムチさん。僕はどうしたらもっとおいしくなるだろう」
「そうじゃのう。まずわしらの村では、寝れば寝るほどうまくなる、というな。難しい言葉でいえば熟成と発酵じゃ。体内の乳酸菌が発酵して味がどんどんよくなるのじゃ。うまさは一朝一夕にてならず。ときには我慢が必要なこともあるのじゃぞ」
「そうか。ありがとう白菜キムチさん」
家に帰ったビビンバくんは、その日から布団をかぶって眠り続けました。
身体が冷え、固くなり、やがてカビが全身を覆っても、まだがんばり続けたのです。
やがて2週間が経ったころ。
「ようし、これだけ我慢したら、もうそろそろいいだろう」
ビビンバくんは勇んでお客さんの前に飛び出しました。
ところがです。
お客さんは、真っ黒になったビビンバくんを見て、
ひゃあと叫んだかと思うと一目散に逃げ出すではありませんか。
そう、ビビンバくんの体質では、発酵はできなかったのです。
ただ身体が腐ってしまっただけでした。
悲しんだビビンバくんは、またも悩みます。
どうしたら僕はもっとおいしくなれるんだろう。
そんなある日、ビビンバくんは、燃える男、チゲさんに会いました。
「ねえねえ、チゲさん。ぼくはもっとおいしくなりたいんだ」
「なにっ、ぐつぐつ! もっとおいしくなりたいだと、ぐつぐつ! だったらまず、ぐつぐつ! 温度にだな、ぐつぐつ! 気を付けることだ、ぐつぐつ! 男はなによりも、ぐつぐつ! 熱いハートがなければ! 味は伝えられないぜ、ぐつぐつ!」
燃える男、チゲさんはあたりにあぶくを撒き散らしながら、熱く熱く語ってくれました。
「そうか、ありがとう、チゲさん!」
ビビンバくんは、喜んで家に帰りました。
ところがです。ひとつ大きな問題がありました。
ビビンバくんは、食べる前に全体をかき混ぜられてしまうのです。
そのため、どんなに身体を熱くしてお客さんの前に出ても、
かき混ぜられる間に冷めてしまうのでした。
悩んだビビンバくんは、再びチゲさんのところに相談に行きました。
「チゲさーん。僕はチゲさんみたいに熱い男になれないよ」
「なにっ、ぐつぐつ! どうしてだ、ぐつぐつ!」
「僕はかき混ぜられちゃうから、どんなに熱くなってもすぐに冷めちゃうんだ」
「そうか、ぐつぐつ! じゃあ特別にオレの衣装を貸してやろう、ぐつぐつ!」
「衣装?」
「そうだ、ぐつぐつ! オレの衣装を着るとお前も燃える男になれるぜ、ぐつぐつ!」
ビビンバくんは、チゲさんの衣装を貸してもらいました。
チゲさんが着ていたのは、石でできた重い重い服でした。
「チゲさん、いつもこんな重い服を着てたんだ。実は影で苦労しているんだな」
ビビンバくんは、チゲさんに少し感心しました。
さっそく家に帰って、チゲさんの服に着替えたビビンバくんは、
またも身体中を極限まで熱くしてお客さんの前に出ました。
「お客さーん、ジリジリ! 僕おいしくなったよお、ジリジリ!」
「おおっ、これはまたビビンバくん、熱い男になったなあ」
「うん、チゲさんに、ジリジリ! 熱い男になるための服を借りたんだ、ジリジリ!」
お客さんは、ビビンバくんをかき混ぜました。
ところが、ビビンバくんはまったく冷めません。
「おおっ、ビビンバくん、かき混ぜても熱いままじゃないか」
「そうですか、ジリジリ! おいしいですか、ジリジリ!」
「うまい、うまいよ! ビビンバくんが熱でもっとおいしくなった!」
「やったあ、ありがとうお客さん、ジリジリ!」
チゲさんの服を借りたビビンバくんは、
今まで以上の人気者になりました。
がんばりやさんのビビンバくんは、
石焼きビビンバくんになったのです。
おしまい
<お知らせ>
ホームページで「ビビンバくんの冒険」のアニメが見られます。
コリアうめーや!!史上初の試みなのですが、
八田氏は現在韓国にいるので更新作業ができません。
帰国予定日は9月4日。
戻り次第で作業をするので、もう少々お待ちください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『八田式「イキのいい韓国語あります。」韓国語を勉強しないで勉強した気になる本』は
大好評発売中です。コリアうめーや!!では、本を読んだ皆様からの感想をアップしまし
た。まだご購入されていないかたは、ぜひ参考にしてください。
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
<八田氏の独り言>
ビビンバくんの冒険を絵本化してくれる出版社を大募集。
どこが「冒険」なんだという鋭い突っ込みはなしでお願いします。
コリアうめーや!!第60号
2003年9月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com