コリアうめーや!!第254号

コリアうめーや!!第254号

<ごあいさつ>
10月になりました。
すっかり外の空気が冷たくなって、
秋の気配が満ち満ちています。
秋モノの服を夏モノと入れ替えたり、
羽毛布団を押入れから出したり。
秋支度、冬支度を進める日々です。
もう、しばらくすると吐く息が白くなって、
かじかむ手をこすったりするんですよね。
節電とともに歩む猛暑の夏が終わり、
節電とともに歩む極寒の冬が始まります。
着ぶくれしながら仕事をする日々は、
いつ頃からスタートするのでしょうか。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
ふとした思いつきで物語を作りました。
韓国料理がテーマのフィクションストーリー。
その出来不出来はともかくとして、
息抜き程度に読んで頂ければ幸いです。
コリアうめーや!!第254号。
西暦488年が舞台の、スタートです。

<新羅の王が捧げる黒いごはん!!>

「あー、大臣。大臣!」
「ははっ、お呼びですか。王様!」

「うん、君を呼んだのは他でもない」
「なんでございましょう?」

「暇だ!」
「は!?」

「暇なんだ!」
「はぁ……」

また王様のワガママかとため息をつく大臣。
直立不動の姿勢でありつつも、その表情は苦々しい。
だが、王様はそんな大臣の表情など意に介さず、
退屈である旨をべらべらとしゃべる。

「だってさぁ、正月も終わっちゃってさぁ」
「部下たちもみんな持ち場に戻っちゃってさぁ」
「だーれも、一緒に遊んでくれないんだもん」
「新しい城の探検も飽きちゃったし」

「はぁ……」

「今にして思うと前の明活城もよかったよね」
「この月城は敷地が半月型でカッコいいと思ったけどさ」
「中に住んでいると半月かどうか見えないし」
「また、明活城に戻ろうか。来月あたりに……」

「ぶちっ!」

「なんなら月ごとに行ったり来たりして……え、ぶちっ?」

「王様! ワガママもいい加減にしてください!」
「月城への引っ越しにどれだけの予算がかかったか!」
「王宮の移転は国家の一大事なんですよ!」
「王になって10年。そろそろ自覚を持ってください!」

「ひゃっ、ごめんごめん。興奮しないで」
「いや、わかったから大臣。そんなに大声出さなくても」
「ちょっと退屈でぼやいてみただけじゃない」
「やるべき政治はちゃんとやっているしさ……」

顔を真っ赤にした大臣は必死に怒りを抑え、
なんとか平静を取り戻して王様を諭す。

「確かに王様にはいろいろな功績がございます」
「北から攻めてきた高句麗を何度も追い返しましたし」
「昨年は神宮を建てて、郵便制度も作りました」
「優秀な王様でいらっしゃると思います」

「だよねぇ!」

「ですが!」
「高句麗はまだまだ攻めてくる気配がありますし」
「国内の政治も万全とはいえません」
「王宮内にも不穏な動きを見せている勢力がおります」

「え、そうなの?」

「そうですとも!」
「初代王の朴赫居世様がこの国を建国して500年以上!」
「21代続く歴史の重さをよくご理解ください!」
「王様が暗殺でもされようものなら国が滅びますよ!」

「それはわかっているけどさぁ……」

大臣の説教はその後、2時間にも及び、
くたくたに疲れ果てた王様は早々と床についた。

そして翌朝。

「あー、大臣。大臣!」
「ははっ、お呼びですか。王様!」
「今日はちょっと民の生活を視察する!」
「は?」

何を言い出したかと目を丸くする大臣

「王宮にいては民の生活がわからないからね!」
「みんなが幸せに暮らせているか、そして不便はないか!」
「肌で感じるのも王様の責務じゃないかな!」
「部下の報告だけじゃわからないこともあるし!」

「うまい言い訳ですが、外へ遊びに出たいだけですよね……」

「い、いや! そんなことはないよ!」
「そんなふうに疑われるなんて心外だなぁ!」
「ちょうどいまは急な政務もないし」
「南山のふもとあたりを巡ってみようかと……」

「思いっきり散歩じゃないですか……」

ため息をつく大臣の後ろから、
また別の部下が王様に声をかける。

「外出の用意が整いましたぁ!」

「あ、準備できた!?」
「夕方頃にはちゃんと戻ってくるからさ!」
「大臣は王宮の留守を宜しくね!」
「じゃ、行ってきまーす!」

「ワタクシも一緒に参ります!」
「え!?」

今度は王様が目を丸くする番であった。
目を離すと王様はどこに飛んで行くかわからない。
お目付役としては当然の行為であったが……。

「それじゃ、羽を伸ばせないじゃん……」

王様のテンションは3割減となった。

王宮を出た一行はやがて南山の東麓に到着。
大臣が一緒ということで、最初は渋い顔の王様だったが、
久しぶりの外出で、徐々に機嫌は戻っていった。

「大臣、このへんはどこかな!」
「えーと、天泉亭があるあたりですね」

「天泉亭って?」
「あそこに見える東屋のことです」

「ふーん、大臣はいろんなことを知っているね」
「まあ、大臣ですから」

「じゃあ、あそこにいる動物と鳥は?」
「動物と鳥!?」

王様一行の行く手を阻むかのように、
ネズミとカラスが道の真ん中に陣取っていた。

「道の真ん中にいると通れないよね」
「そうですね、ネズミとカラスが一緒とは珍しい」

「なにか僕に用事でもあるのかな」
「そんな馬鹿な……」

大臣がそう答えるのとほぼ同時に、
ネズミが人間の言葉で王様に話しかけた。

「王様に申し上げます!」

「うわ、ネズミがしゃべった!」
「……!!」
「大臣、ここはディズニーランドだっけ!?」
「……」

大臣は王様の小ボケを華麗にスルー。

あっけにとられる一行をよそに、
ネズミは王様に向かって語り始めた。

「本日、王様が外出されたのは正解でした」
「王様の運命はこのカラスが握っております」
「どうかカラスの道案内に従ってください」

横にいたカラスはくるっと踵を返し、
バサバサと羽ばたきながら先導役を始める。
カラスの後についてしばらく行くと、
たどりついたのは、蓮の葉が浮かぶ小さな池だった。

ゴボゴボゴボ、ゴボゴボゴボ。

池の中から浮かんできたのはひとりの老人である。
老人は両手に斧を持って王様に問いかけた。

「そなたが落としたのはこの金の斧か、あるいは銀の斧か?」
「いえ、特に斧は落としていないんだけど……」

「ふむ、せっかくの斧をいらぬと申すか」
「いや、いらないとかでなく……」

池の老人はしばらく考えこんだ姿を見せ、
また改めて王様に向かって話しかけた。

「そなたは近年稀に見る正直者のようじゃな」
「王という立場にふさわしい人物であると判断する」
「そしてこの手紙をそなたに授けよう」

「別に手紙もいらな……」
「手紙を授けるぞよ!」

老人は王様に手紙を押しつけると、
そのまままたゴボゴボと池に沈んでいった。
王様一行はその姿を呆然と見送るしかなかった。

「大臣、なんか手紙をもらったよ」
「はあ、いろいろありすぎて心が追いつきません」

「大臣はちょっと神経質なところがあるからね」
「いえ、王様が図太すぎるのではないかと」

「王宮じゃないと思って失敬だな、キミも」
「すいません、つい本音が出ました」

「まあ、いいや。とにかく手紙を開けてみてくれる?」
「はい、かしこまりました」

老人からもらった手紙を大臣が読み上げる。

「えーと、王宮にて琴の箱を射よ、とあります」
「ふーん、ほかには?」

「中はそれだけですが、裏に注意書きがありました」
「うん、なんて?」

「この手紙を読むと2人が死ぬ、読まないと1人が死ぬ……」

「……」
「……」

「……」
「……」

「おい、大臣」
「はっ!」

「被害が倍になったようだぞ」
「そのようですね……」

「そのふたりって僕と大臣じゃないだろうね」
「いや、ち、違うと思いますが……」

「まあ、いいや。気分も萎えたし城に帰ろうか」
「そ、そうですね……」

とぼとぼと帰路につく王様一行。
そして、王宮内に戻ってみると驚いたことに、
玉座の近くには琴の箱が置かれていた。

「大臣、本当に琴の箱があるよ」
「ありますね……」

「手紙にはなんて書いてあった?」
「琴の箱を射よと……」

「じゃあ、弓を持ってきてくれるかな」
「えっ、本当に射るんですか!?」

「だって、射よって書いてあったじゃない」
「でも、中を調べてからでも遅くは……」

ビュッ! ビュッ ビュビュッ!

大臣の制止を振り切って矢を射る王様。
ハリネズミのように矢が刺さった琴の箱からは、
なんと血まみれになったふたりの刺客が出てきた。

王様の外出をチャンスと見て、琴の箱に隠れ、
暗殺のスキを狙っていたのであった。

「うわっ、こいつら刀持ってるよ」
「不用意に開けていたらやられましたね……」

「手紙を読まなかったらひとり死ぬっていうのは……」
「ええ、王様のことだったようですね……」

「大臣、手紙の件、グッジョブ」
「はい、恐縮です……」

「でも、こいつら大臣の差し金じゃないだろうな?」
「め、滅相もない!」

「まあ、それなら素直に手紙を読まないか」
「そうですとも!」

疑われた大臣は真っ赤な顔で反論。

「それ以前に王様がいつも身勝手なことをするから」
「こういう不届き者が現れたりするのです」
「そもそも今日だって王様の外出が原因となってですね」
「警備も手薄になって、ガミガミ……」

大臣の説教はその後、2時間にも及び、
くたくたに疲れ果てた王様は早々と床についた。

そして、数日後。

「あー、大臣。大臣!」
「ははっ、お呼びですか。王様!」

「なんか美味しいものが食べたい!」
「は?」

「例の事件で警備が厳しくなったじゃない」
「外出もできないし、食べ物も毒見が厳重になったし」
「いつも冷たいものばかりだから美味しいものが食べたい」
「できれば甘いものとか高級なものとか」

「そんな贅沢を民が許すとお考えですか!?」

「だってぇ……」
「あ、そうだ。じゃあ、こうしようよ!」
「こないだ僕はカラスに命を助けられたじゃん!」
「だからカラスに感謝する日を作ろう!」

「はぁ?」

「黒砂糖とゴマ油で黒いおこわを作ってさ!」
「カラスにちなんで黒い料理を捧げる国家行事を作るんだよ!」
「王の命を救ったぐらいだから、きっと民も納得するよね」
「捧げたおこわは、後でみんなで分けて食べよう!」

「ったく、悪知恵だけは働くんだから……」

「黒砂糖はたっぷりで甘く作ってよね!」
「ナツメとか松の実とか栗も入れて豪華にして!」
「栄養たっぷりだから、これは薬だということにもしてさ!」
「恩あるカラスに薬を捧げるっていうイメージで……」

「あー、はいはい。わかりましたよ!」

かくして作られたのが「薬飯」と書いてヤッパプ。
あるいは「薬食」でヤクシクと呼ばれる料理である。
甘くこってりとしたヤッパプは民にも喜ばれ、
やがてはハレの日の料理として定着するに至った。

王様がカラスに命を救われた旧暦1月15日に、
ヤッパプを食べる習慣はこの故事に由来する。

だが、この故事において。

カラスと同程度の活躍をしたにもかかわらず。
感謝の行事からすっかり省かれてしまった、
ネズミと老人のその後は誰もしらない。

<リンク>
ブログ「韓食日記」
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http://www.facebook.com/kansyokunikki

<八田氏の独り言>
当然のごとく大半がフィクションです。
遊び半分の物語とご理解ください。

コリアうめーや!!第254号
2011年10月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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