コリアうめーや!!第244号
<ごあいさつ>
5月になりました。
すっかり気温の高い日が増えて、
春らしい日々を満喫しております。
風が冷たくないのがいいですね。
1年の中でも、暑さにも寒さにも偏らない、
春から初夏にかけての時期は本当に幸せです。
どこに行くあてもない連休ですが、
食べたり飲んだりする予定だけは満載。
先月の済州島取材以降、腹回りがピンチですが、
この連休でダメージがさらに増しそうです。
困ったもんだと思いつつ、いつも口ばかりの不摂生。
どこかで歯止めをかけたい今日この頃です。
といった愚痴はさておくとして。
先日、済州島で食べてきた料理から、
今号でもひとつ報告をしたいと思います。
個人的には大発見だった2つの料理。
その興奮がやや空回る可能性は高いですが、
今後につながる1歩として書き記しておきます。
コリアうめーや!!第244号。
済州島にますますハマる、スタートです。
<済州島で見た韓国式中華料理の原型!!>
韓国料理とも長いこと接していると、
いろいろな疑問、解けない謎が溜まってくる。
いくら調べてもわからないことは多く、
頭の片隅でずっと熟成を続ける課題がある。
キムチなら熟成を経ることで美味しくなるが、
頭の中の課題は、熟成を経ても変化はない。
万能冷蔵庫のようなものだが、
「長期保存もラクラク!」
などと喜べる訳ではない。
課題は課題のまま、脳みその一部を圧迫し、
時折りぶち当っては、僕を悩ませる。
脳内で発酵しすぎて、脳細胞ごととろけそうだが、
こればっかりはどうにも仕方がない。
ゆえに。
ひょんなことからその課題が解決すると、
それはそれは大きな感動を覚える。
脳内で澱のように固まっていた課題が、
しゅわーっと溶けて蒸発していくような感覚。
「コリアン・フード・コラムニストでよかった!」
としみじみ思う瞬間だ。
前号で書いた済州島式のユッケジャンも興奮したが、
今回書く内容は、それ以上に多くの脳汁が出た。
長年抱えてきた課題がふたつも同時に前進。
済州島は本土から離れているがために、
食の流行から、ある種、隔絶された部分がある。
そのため今回、僕がこれまで長いこと探し続けてきた、
オーパーツのような料理を発見することができた。
韓国という国は、ひとつ何かが流行すると、
右へ習えで一斉に変化し、旧来のものが失われる。
流行に敏感ということもできるだろうが、
古いものへのこだわりが少ないともいえる。
そんな過去の料理が済州島に残っていたというのは、
ある意味とても納得のゆく話だが、それでも、
「やはり!」
という気持ちと、
「まさか!」
という気持ちが入り混じった。
舞台は済州島で古くから営業する中華料理店。
西帰浦に本店を持つ「徳盛園」の支店が、
ちょうど泊まっていた済州市にあった。
豪快にワタリガニを丸ごと入れたチャンポンが、
名物ということを聞いて食べに行ったのである。
するとである。
メニューを開いたところ、麺料理の部分に、
こんな文字が並んでいるではないか。
・三鮮チャンポン(白いチャンポン)
・三鮮唐辛子チャンポン(辛いチャンポン)
・ワタリガニチャンポン
・牡蠣チャンポン
・八角チャンポン
ワタリガニのチャンポンをめがけてきたため、
反射的にそれを頼んだが、後になってギョッとした。
見るべきは、いちばん上の三鮮チャンポン。
三鮮とは3種類の魚介が入っているという意味で、
イカ、エビ、ナマコなどがその代表である。
チャンポンのアレンジメニューとしてはごく普通だが、
その後についているカッコ内が衝撃的だ。
「白いチャンポン」
というのは日本でこそ当たり前だが、
韓国では粉唐辛子の入った真っ赤なスープが基本。
スープの白いチャンポンはずいぶんと珍しい。
という話をすると、
「何いってんのさ、韓国にもあるよ」
「韓国の中華料理店にはウドンっていう名前でね」
「白いチャンポンが必ず置いてあるよ」
という反論を聞くこともある。
だが、基本的にウドンとチャンポンは別料理であり、
この「徳盛園」でも、
・三鮮ウドン
というメニューがほかにある。
同じく白いスープでも希少度はまるで違う。
そして注目すべきはもうひとつ。
韓国では一般的な赤いスープも用意されており、
そこには「三鮮唐辛子チャンポン」とある。
あえて「唐辛子」という文字を加えているのは、
入れない「三鮮チャンポン」こそが標準ということ。
5種類用意されているチャンポンのうち、
白いチャンポンがいちばん上にあることも意義深い。
おそらくこのチャンポンが店の基本形なのだ。
ただ、店の人に確認してみたところ、
白いチャンポンは「三鮮チャンポン」のみ。
残りのメニューは唐辛子が入って辛いとのことだ。
僕の注文したワタリガニチャンポンも赤かった。
「白いチャンポンを頼めばよかった」
とも思ったが、とりあえずワタリガニチャンポンに挑む。
辛いスープにはワタリガニのダシがよく効いており、
また野菜がたっぷりなので、辛さの中にも甘味がある。
身の詰まったワタリガニにかぶりついた直後に、
ずずっと麺をすすりこむと、これがまた格別。
白いチャンポンへの後悔はともかく、
さすが評判となる老舗の看板料理であった。
しかし、白いチャンポンも気になる。
どうしても実際にその味を確認したかったので、
帰国日ではあったが、翌日にもう1度足を運んだ。
その前にいったん、白いチャンポンについて整理しておこう。
韓国では唐辛子入りの赤いチャンポンが一般的で、
唐辛子を入れない、白いスープのチャンポンは珍しい。
だが、その珍しさにはちょっとした意味があり、
長い間、僕は白いチャンポンを追いかけていた。
まず、僕が2003年10月に、
コリアうめーや!!第62号として書いた文章。
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少なくとも日本では白いチャンポンが、
なぜ韓国に渡って真っ赤になってしまったのか。
そしてなぜ名前はそのまま残っているのか。
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第62号/僕は中華料理が大好きだあっ!!
http://www.koparis.com/~hatta/koriume/koriume62.htm
これを疑問を同じく引用し考察を進めたのが、
2010年2月のコリアうめーや!!第215号。
第215号/韓国式チャンポンの謎に立ち向かう!!
http://www.melonpan.net/letter/backnumber_all.php?back_rid=647427
詳しくは第215号を読んで頂きたいが、
その要旨というのが以下のような感じである。
・チャンポンは1899年に長崎で生まれた
・韓国には日本から伝わったと推測される
・その当時のチャンポンは唐辛子が入らず白かった
・唐辛子を入れて赤くなったのは70年代前半
・理由は経営者が華僑から韓国人に変わったため
・現在は赤いチャンポンばかりになっている
ただ、その詳細な流れについては推測も多く、
僕は第215号の最後を、
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韓国のチャンポンが抱えるいくつもの謎。
今後も、引き続いて追いかけてゆく所存である。
もし有効な情報をお手持ちの方がいたらぜひ教えて欲しい。
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と結んでいる。
ここで僕が考えていたのは、韓国のチャンポンが、
昔は白かったのなら、それを残す店があってもよいということ。
右へ習えで、ひとつの流行がスタンダード化する韓国だが、
昔のものをそのまま残している店があっても不思議ではない。
どこぞの老舗に白いチャンポンが残っていないだろうか。
そう思っていたところに、この「徳盛園」である。
しかも、この店の創業は1945年と非常に古い。
店のメニューから読み取れる事象を含めても、
この白いチャンポンが、旧来のものである可能性は高い。
そんなことを思いつながら待っていると、
やがて白いチャンポンが、目の前に運ばれてきた。
「おお、確かに白い!」
とはいいつつも、乳白色のような白さではなく、
微妙に茶色みを帯びた感じのスープであった。
だが、唐辛子は入っておらず、赤さはまったくない。
具にはキャベツ、ニンジン、長ネギなどの野菜に加え、
牡蠣、エビ、ゲソなども入ってなかなか豪華である。
おもむろにスープをひとさじすくって飲むと、
魚介のダシに、野菜の甘味がしっかり溶け込んでいた。
唐辛子の辛さがないため穏やかな味わいである。
ただ、日本で食べる長崎ちゃんぽんともやや違い、
印象としては、むしろタンメンに近い感じ。
また、前日にワタリガニチャンポンを食べているせいか、
比べてしまうと、ややパンチが弱い印象もあった。
白いチャンポンに出会ったという感動はあったが、
料理としては、ワタリガニチャンポンのほうに軍配。
看板料理となるだけの、理由はあるようであった。
帰り際、店の人に少し話を聞いてみたが、
「白いチャンポンは古くからある」
という程度の情報しか得ることができなかった。
意図すべき話は、おそらく社長か、本店の料理長など、
しかるべき地位の人に聞かねば意味がないだろう。
老舗中華料理店のメニューに白いチャンポンがある、
という事実確認にはなったが、これまた解決ではない。
冒頭で澱が溶けたなどと、つい書いてしまったが、
すべての課題が昇華した訳ではない。
いうなれば、1歩前進という程度だろうか。
いずれまた済州島取材に行く機会があれば、
ぜひとも「徳盛園」を訪ねたいと思う。
さて、最後に済州島での発見もうひとつ。
これは「徳盛園」ではなく別の中華料理店。
同じく済州市にある「亜洲飯店」という店に出かけた。
こちらも「徳盛園」同様、老舗として知られており、
済州市ではもっとも古い中華料理店とのことだ。
ここで食べたのは、三鮮チャジャンミョン。
魚介の入ったジャージャー麺であるが、
これをわざわざ食べに出かけたのは目玉焼きのため。
釜山を中心とした慶尚道地域ではカンチャジャンという、
とろみをつけないチャジャンミョンに目玉焼きが載る。
これを僕は長い間、釜山ならではの特徴と思っていたが、
先日、釜山の老舗中華料理店を訪ねたところ、
「昔はどこでも載せていたよ」
との回答を得て驚いた。
ソウルを中心とした他地域では消えてしまったが、
その話が本当なら、釜山以外でも見つかるはず。
そう思っていたところへ、今回、白いチャンポンの発見があり、
調べているうちに、目玉焼きの情報にも出会った。
カンチャジャンではなく三鮮チャジャンミョンではあるが、
実際に足を運んでみると、確かに目玉焼きが載っている。
店の人は、
「目玉焼きを載せるのは価格の差別化だね」
「より高い値段を取るのに見た目が一緒じゃまずいでしょ」
「それを補うために目玉焼きを載せたってこと」
と語ってくれた。
それならばカンチャジャンではなく、
三鮮チャジャンミョンに目玉焼きが載る理由になる。
料理との相性ではなくグレードの象徴だからだ。
これまたいろいろな検証が必要ではあるが、
こちらもまた、事実に近づく大きな1歩。
韓国式中華料理の近代史を知るうえで、
済州島は重要な価値を持つフィールドのようだ。
できれば「亜洲飯店」もいずれ取材で行きたいもの。
また、済州島にある他の中華料理店にも、
機会があれば、少しずつ足を運んでみたい。
埋もれた情報が、ほかにもあるような気がする。
済州島は豊富な食材を有する美食の島。
それを表の顔とするならば、今回食べた料理は、
済州島という地域がもつ、裏の魅力といえるだろう。
ややマニアックには過ぎる話ではあろうが、
済州島という島がますます好きになった。
<店舗紹介>
店名:徳盛園本店
住所:西帰浦市西帰洞472-1
電話:064-762-240
店名:徳盛園済州店
住所:済州道済州市二徒2洞408-17
電話:064-759-0010
店名:亜洲飯店
住所:済州道済州市一徒1洞1475-1
電話:064-722-5161
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
他地域にもまだ白いチャンポンはあるはず。
地方に狙いを定め、コツコツと探していきます。
コリアうめーや!!第244号
2011年5月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com