コリアうめーや!!第217号
<ごあいさつ>
3月15日になりました。
このところ暖かな日が増えてきましたが、
比例するように、花粉の飛び散り方が強烈です。
鼻が詰まって息苦しいことこの上なく、
目もシバシバして涙が止まりません。
薬でも飲めば、また違うんでしょうけどね。
さほど症状がひどくないのをいいことに、
時が過ぎるのを、ひたすら待つ日々です。
ああ、いっそ花粉の少ない韓国に飛び立ちたい。
そんなことを思う3月の真っ只中ですが、
前号に続き、3月らしい話題を選びました。
といいつつも少し胸を張り切れない、
微妙な事情があるんですけどね。
そのあたりは文中で言い訳をさせてください。
ともかくも書きたかった念願のテーマ。
極めて地味な角度からの料理セレクトですが、
個人的には高いテンションでお届けします。
コリアうめーや!!第217号。
ズビズバの呼吸音で、スタートです。
<3月にはサワラを食べるのだ!!>
前号のテーマはサムギョプサルだった。
豚バラ肉を焼いて食べるというシンプルな料理。
サムギョプサルの語源が「三層の肉」であることから、
3にちなんで3月3日はサムギョプサルデーになっている。
そんな理由からタイムリーな話題として選んだのだが、
後で振り返ってみると、文中で触れるのを忘れているではないか。
サムギョプサルの分類というテーマにのめり込んだため、
書いたつもりで、実はすっぽりと抜け落ちていた。
これでは何のためにサムギョプサルの話題を、
3月1日配信号にねじ込んだのかわからない。
「ぬぁぁぁぁあああ、しまった!」
と後から気がついたので、恥ずかしながら、
今号にまたがって、その事実をお伝えする次第である。
3月3日はサムギョプサルデー。
2003年に畜産業協同組合らが制定したもので、
豚肉の消費拡大とPRを主な目的としている。
バレンタインデーやホワイトデーほどの影響力はないが、
数年間続けたことで、だいぶ存在も認知されてきた。
ちょうど韓国では春先に黄砂が吹き荒れることもあり、
「喉のイガイガをサムギョプサルの脂が洗い流す!」
という俗説が、春先の印象を下支えした感もある。
今年も大型スーパーで割引セールが行われたり、
それを新聞などのマスコミが取り上げたりして話題になった。
畜産農協が開催する無料試食会などもあったようだ。
僕個人はその日、マッコリの会を主催していたので、
残念ながら、サムギョプサルを味わうことはなかった。
韓国に数多ある食べ物関係のイベントデーすべてに、
参加したいという野望はあるが、なかなか実現が難しい。
というところまでを踏まえて。
以上で、前号の書き忘れを補ったのだが、
実はさらに情けない事態に陥っていることを告白する。
「ぬぁぁぁぁあああ、しまった!」
はサムギョプサルだけでなく、もうひとつあった。
3月のイベントデーはサムギョプサルだけではないのだ。
昨年秋から構想としてまとまっていたネタがあり、
いいタイミングでと、今年の3月をずっと待っていた。
そして、そのイベントデーは3月7日なのである。
サムギョプサルデーの話を書き忘れたどころか、
こちらは書くことそのものを忘れて、その日が過ぎ去った。
こういう記事は事前に配信しなければ意味がない。
「昨日は節分で恵方巻きを食べる日でした!」
といわれても、いまさら食べる訳にはいかないし、
その光景がいくら楽しそうでも、ふーん、で終わる。
逆に、
「3月28日は三ツ矢サイダーの日です!」
という未来の情報であれば、
普段どんなに興味がなくとも、
「じゃあ、その日は七星サイダーをやめて三ツ矢にするか」
という気にもなることだろう。
なお、3月28日は三つ葉の日でもあるので、
親子丼に三つ葉をドサ盛りで食べるのも悪くない。
そんな訳で今日は3月15日を迎えてしまった僕は、
取材メモを見ながら、呆然としているのである。
「ああ、過ぎ去ってしまった3月7日よ、カムバック!」
とはいえ、これを逃がすと次は1年後。
その頃にはもうテンションが落ちているかもしれない。
あるいはまた別のタイムリーな記事があるかもしれない。
もしくはまたコロッと忘れてしまうかもしれない。
ならば、多少過ぎてもいま書いておくべきではないか。
いまならばきちんとテンションも高いままだし、
そのほかには特にタイムリーな記事もない。
先に書いてしまえば、1年後にまた忘れることもない。
といった実に身勝手な都合と自己解釈により、
言い訳つきで書いてしまうことに決定した。
要するに、ここまでがその言い訳である。
さて、みなさん。
3月7日はサワラの日(サムチデー)。
2006年に海洋水産部(現在の農林水産食品部)が、
大韓民国遠洋漁業協会とともに制定したイベントデーである。
この手のなんたらデーは、ほぼすべて目的が一緒だが、
サワラの消費拡大とPRがその制定意義になっている。
3月7日に決まったのはサワラの韓国語名であるサムチが、
数字の「3(サム)」「7(チル)」に似ているから。
同様の理由でマグロ(チャムチ)も語感が似ているとして、
3月7日はマグロの日(チャムチデー)にも指定されている。
ただ、ひとつ残念なのがこの両者。
サムギョプサルデーよりも、輪をかけて認知度が低い。
身近な韓国人に向かってハイテンションで、
「3月7日って、韓国ではサワラの日なんですよね!」
「おまけにマグロの日でもあるんですよね!
「サワラの西京焼きとマグロの刺身で1杯どうですか!」
などと語っても、
「なにそれ?」
で終わるケースもあるのでご注意願いたい。
そもそも、こうしたイベントデーで得をするのは、
関係業者を除くと、僕らマスコミぐらいなのである。
「あひゃ、コラムのネタが増えてラッキー!」
というのがイベントデーの一側面だ。
だが、それもまたバカにしたものでもない。
僕のミスで絶好のタイミングは逃がしたものの、
こうしてサワラにスポットライトを当てられるのは貴重な機会。
韓国ではサバ、サンマ、タチウオ、イシモチなどとともに、
代表的な大衆魚だが、観光客にはやや印象が薄い。
焼き魚をメインにした裏路地の食堂では実力を発揮するが、
それ以外では目にする機会もあまりない魚である。
「美味しい魚なのにもったいないじゃないか!」
ということで、年に1度の機会に(過ぎてるけど)、
韓国で唯一、サワラを町の名物にしている場所を紹介しよう。
サワラの日と、サワラを愛する町のダブルパンチだ。
舞台となるのは、僕が昨年ひとりで語り続けた仁川である。
東仁川駅から徒歩10分ほどの銭洞というエリアに、
16軒もの専門店が立ち並ぶ、サワラストリートがある。
この町の名物はサムチグイ(サワラの焼き魚)。
たっぷりの油で揚げるように焼いたサワラは、
肉厚で、旨味たっぷりで、マッコリにもよく合う。
サワラ好きにとっては聖地にも等しい場所だ。
僕が足を運んだのは1968年創業の「イナエチプ」。
サワラストリートではもっとも歴史の古い元祖店であり、
現在もいちばんの人気店として多くの客を集める。
仁川でサワラが有名になったのは、まさにこの店が始めたからで、
その経緯を、初代の息子である2代目が語ってくれた。
「ん、サワラを売り始めた経緯?」
「あー、その当時はまだ食べるものが充分じゃなくてね」
「サワラは身が大きいから、ボリュームがあっていいなと」
「そんな理由で、初代が目を付けたっていうのが始まり」
「ちょうどサワラがたくさん水揚げされ始めたんだよね」
「ウチらが使っているサワラはニュージーランド産なんだけど」
「マグロをとるときに、サワラも一緒にかかっちゃうの」
「マグロの副産物として、安く売ってたってことだね」
なるほど。
確かにサワラストリートの店はどこも値段が安い。
皿いっぱいにサワラがどさどさと盛られてわずか5000ウォン。
それ以外のつまみがいらないぐらいの超ボリュームだ。
「いまウチで使ってるのも、みんなニュージーランド産だよ」
「まあ、秘密があるとすればサワラの解凍と血抜き」
「下ごしらえをしっかりやって、あとは焼きのタイミング」
「醤油ダレとコチュジャンダレは大事だけどね」
出てくるサワラは、そのままでも下味がついているが、
2種類のタレにつけて食べると、また印象が変わっていい。
醤油ダレにはネギや青唐辛子が刻まれて入っており、
コチュジャンダレは甘味が強くトッポッキ(餅炒め)風である。
「店が増え始めたのは90年代後半ぐらいからかな」
「いまじゃもう16軒が営業しているからね」
「全国でもサワラで町が出来ているのはここだけだよ」
「3代に渡っての常連さんなんかもいるしね」
2代目は終始、にこやかであった。
元祖店の余裕だろうか。
ライバルが増えても気にしていない様子だ。
事実、16時の開店とともに、どんどん客が入ってきた。
客の大半が、席につくなりサムチグイとマッコリを注文している。
地元仁川産のマッコリもヤカンになみなみで3000ウォン。
ひとり1万ウォンもあれば、へべれけに酔える。
気さくな店主のいる安くて美味しい居酒屋。
サワラの日ならずとも、ちょくちょく通いたい店である。
春はサワラの旬でもあるが、そもそもが冷凍の輸入物。
実質本位が売りのメニューなので、いつ行っても大差はない。
ただ、唯一気になることがあるとすれば、
輸入されてきたニュージーランド産のサワラを指し、
「いわゆるバラクーダってやつよ!」
と2代目がいっていたこと。
そのときはなるほど、と話を聞き流してしまったが、
後でよくよく考えてみると、バラクーダの和名はオニカマス。
そうなるとサワラではなく、カマスの仲間になる。
確かにサワラとカマスはその姿が似ているが、
あくまでも親戚程度であり、同種という訳ではない。
おそらくの推測だが、2代目の個人的な勘違いであるか、
または俗称として広まったものが定着したのだろう。
もし今後、きちんと情報が伝わる中で、
「実はバラクーダ(オニカマス)でした!」
という事実が発表されたらと思うと、けっこう恐い。
ここ数年、観光地としても定着してきたこの町が、
いきなり、
「バラクーダ通り」
に看板をすげかえる日がくるのかもしれない。
そうなると、サワラの日(過ぎてるけど)に、
うまく引っ掛けたこの記事も、まったく意味を成さない。
ああ、どうか事態がひっくり返ったりしませんように。
日本から静かに祈る日々である。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
3月21日はコリアうめーや!!創刊日。
丸9年を向かえ、いよいよ10年目に突入です。
コリアうめーや!!第217号
2010年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com