コリアうめーや!!第185号
<ごあいさつ>
11月15日になりました。
寒い日が続くようになり、今年ももう少しです。
今号を含めて、あと3回配信すれば2008年も終わり。
つい先日、ミレニアムで大騒ぎした気もしますが、
気付いてみると、来年はもう2009年なんですね。
2000年代……と書くと1000単位に感じられますが、
80、90年代に続く、00年代は来年で最後です。
もう昭和だって、20年も前の話ですしね。
自分が歳を取ったな、としみじみ思う今日この頃です。
となぜかいきなりテンションガタ落ちの冒頭ですが、
必死で盛り返して、熱く語りたいと思います。
前号でも書いた、全羅北道3泊4日旅の美食後記。
今号では2日目の昼食をメインに語ります。
コリアうめーや!!第185号。
小粒でもピリリと辛い、スタートです。
<秋の名物、ドジョウを南原で食べる!!>
子どもの頃、我が家ではなぜかドジョウを飼っていた。
夏祭りの夜店ですくった金魚が寿命をまっとうした後、
残った水槽の主人となったのがドジョウだった。
父が暇を見ては、エサをやっていたように思う。
僕の住んでいたマンションは、珍しくペットOKで、
近所を大型犬やネコ、逃げ出して野良化したリスが走っていた。
東京の僻地とはいえ、一応23区内にあった我が家。
「環境抜群!野生のリスにも出会えます」
というマンションの不動産広告には複雑な思いがした。
ちなみに当時、我が家でもリスを飼っていた。
逃がした記憶はないので野良化はウチのせいではない。
ほかにもハムスター、ミドリガメなどの小動物と暮らしていた。
ドジョウも含め、みな家族同然の存在である。
であるからして、韓国へ留学した当時。
「今日チュオタンを食べたんだけど美味しかったなあ」
「へー、チュオタンってどんな料理ですか?」
「ドジョウのスープ」
「!」
というルームメイトのセリフには衝撃を受けた。
もちろん日本にもドジョウ料理はあるので、
僕も知識として、食べられるものだとは知っていた。
だがその瞬間、心の奥底がどことなく微妙な気分になり、
結局その後、数年ほどチュオタンを食べる機会はなかった。
初めて食べたのは釜山でのことだっただろうか。
知人の薦めで、チュオタンを食べに行った。
最初は恐る恐るスープをすすったが……。
「……」
「……」
「……」
「うまっ!」
チュオタンは予想以上に美味しい料理だった。
なんとなくヌルヌルした丸ドジョウを想像していたが、
スープの中にその姿はなく、菜っ葉が中心的な具であった。
後で知ったところによると、ドジョウは煮た後にすりつぶし、
スープの中に溶かした状態で入っているとのことであった。
確かに食べていると、ときおり骨のかけらが歯に当たる。
スープがどろりとしているのも、ドジョウが溶けているからだ。
「なんだ、ドジョウってこんなにうまかったのか」
「チュオタンも、もっと早くから食べておけばよかった」
「家で飼っていたドジョウも食べればうまかったかな」
あっという間の方向転換。
この仕事を始めてから、昔の思い出がみな食欲に変わっていく。
一種の職業病とでもいえばよいのだろうか。
そのチュオタンを本場で食べてきた。
韓国ではドジョウ料理といえば南原(ナムォン)が本場。
全羅北道では南東の角に位置する市で、
東は慶尚北道、南は全羅南道に接している。
古くから交通の要所として人々の往来が多く、
韓国の古い説話『春香伝』の舞台にもなった。
自然豊かな智異山のふもとに位置するため、
市内を流れる川は水がよく、良質のドジョウがとれる。
南原市内の川渠洞(チョンゴドン)一帯には、
ドジョウ料理の専門店ばかり30軒ほど並んでいる。
話には聞いていたが、訪れてみると実に壮観。
通りに面してドジョウ専門店ばかりが並び、
あちらもこちらも、そちらもどちらもという状況。
これだけの店が共存しているということは、
地元の人だけでなく、他地域からも多くの人が来るのだろう。
そのせいか、どことなく観光地化も進んでいる印象。
ある店の前にはドジョウ抱いた女性の石像まであった。
おそらく石像のモデルとなっている女性は、
『春香伝』の主人公、成春香(ソン・チュニャン)。
店の看板を見ても、『春香伝』にちなんだものが多く、
南原は全面的に『春香伝』とドジョウの町だった。
たくさんある店の中から、一軒の老舗店に入った。
1959年創業という歴史のある有名店だ。
ガイドブックにはひなびた外観写真が掲載されていたが、
行ってみると、その情報はだいぶ古いものだとわかった。
商売繁盛と見えて、巨大なビルに建て直されている。
広い座敷の真ん中に陣取り、チュオタンと天ぷらを頼む。
ちなみにチュオタンのチュオは「鰍魚」と書きドジョウのこと。
その名の通り、韓国では秋がいちばんの旬とされている。
ただし、ドジョウそのものを呼ぶときはミクラジが一般的。
チュオタンのことを、ミクラジタンと呼ぶこともある。
僕らが頼んだ天ぷらも、料理名はミクラジティギム。
ティギムというのが天ぷらを意味している。
丸ドジョウをエゴマの葉で包み、衣をつけて揚げている。
塩をつけて食べると、中からコリコリしたドジョウが登場。
ビールによく合う味といった印象であろうか。
ほかにもミクラジスッケという、辛い炒め煮もメニューにあった。
これらの料理でひとしきりビールや焼酎を飲み、
最後にチュオタンという流れでもよかったかもしれない。
メインのチュオタンは味噌をベースに粉唐辛子を追加。
そこへエゴマの粉と、山椒の粉を加えるのがポイントである。
ドジョウ特有の、泥くさい風味を消す工夫であろう。
韓国料理で山椒を使うシチュエーションはほとんどないが、
日本におけるウナギに山椒と同じく、不可欠な存在とされる。
スープをすすると、どろっとした濃厚な口当たり。
ドジョウの姿こそ見えないが、風味は確かに存在する。
そして旨みの中には、全体を包み込む優しい甘味。
「この甘味の正体はなんだろう……」
と味わいながら考えていくと、
どうやら具として加えられた菜っ葉が影響しているようだ。
煮込まれすぎて、全体が柔らかくとろとろになるほど。
元の姿が判別つかないが、大根の葉を干したもののようだった。
後で店員に聞いてみると、
「うちはヨルムを使っています」
とのこと。
ヨルムはもともと大根の間引き菜で、葉だけの大根。
キムチにも使われるが、チュオタンにもよく合うとわかった。
ドジョウの旨みを、大根の葉がよく下支えしている。
ちなみに南原で出されるようなチュオタンのほかに、
ドジョウをすりつぶさず、丸ごと煮込む作り方もある。
すりつぶす方式が慶尚道や全羅道で広まったのに対し、
丸ドジョウを入れるのは、ソウルの製法である。
ただし、現在はソウルでも丸ドジョウを使う店は少なく、
食べやすい南部式を、多くの店が採用している。
ソウル式は一部の老舗店でのみ食べられる貴重な味だ。
どちらが好みかは意見が分かれるところだろうが、
個人的にはやはり南原で食べて南部式に軍配を上げたい。
ドジョウを丸ごとかじる妙味も捨てがたいところだが、
全体に旨みが行き渡り、スープ料理としての魅力が増す。
そう確認できたことも含め、
南原のチュオタンは大満足であった。
店を出た後は、淳昌のコチュジャン村を見学し、
世界遺産があることでも知られる高敞でウナギを堪能。
3泊4日の食べ歩き旅は、まだまだ続いてゆく。
<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
この季節、柳川鍋なんかも美味しいでしょうね。
ドジョウの唐揚げも好きだったりします。
コリアうめーや!!第185号
2008年11月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com