コリアうめーや!!第182号

コリアうめーや!!第182号

<ごあいさつ>
10月になりました。
じわじわ長く続いていた残暑も去り、
僕の住む東京もだいぶ涼しくなりました。
つい先日、ソウルに出張したところ、
状況は同じと見えて、急激な寒さがもっぱらの話題。
「2、3日前までは本当に暑かったのに!」
というセリフを25回ぐらい聞きました。
すでにオンドル(床暖房)を入れている家もあり、
ソウルも順調に冬支度が始まっているようです。
そんな冬の入口を横目に、ひとまず秋の季節料理。
今回の訪韓で堪能した旬の味覚を紹介します。
長い間、話には聞いていたんですけどね。
実際に味わうのは、僕も初めての経験。
長らく思い出に残るであろう味わいでした。
コリアうめーや!!第182号。
秋を満喫する、スタートです。

<秋はなんとしてもチョノなのだ!!>

韓国人も魚をたくさん食べる。
よく食べる魚の名前を列挙しても……。

と書いたところで、ふと思いついた。

韓国語で魚の名前を列挙すると面白いのだ。
それもハングルではなく漢字で。
冒頭から横道にそれて、少し魚と漢字の関係を語ろう。

韓国語にも漢字由来の言葉がたくさんあり、
ハングルで書かれた文章も、一部は漢字に置き換えられる。
もちろんすべてを置き換えられる訳ではないが、
一部でも漢字に直すと、ぐっと意味を把握しやすくなる。

といった話は語学本にたくさん出ているので省略。

漢字表記のできる魚の名前に重点を置こう。
韓国でよく見かける魚の名前を漢字で書いてみる。

まずは初級編。

・広魚(クァンオ) → ヒラメ
・長魚(チャンオ) → ウナギ、アナゴ
・氷魚(ピンオ) → ワカサギ

日本語とは少し違うが納得のゆくものばかり。
日本で平たい魚と書くヒラメは、広い魚に置き換えられ、
ウナギ、アナゴの細長い形状はそのまんま長魚と表現。
氷の張った湖で釣られるワカサギは氷魚である。

韓国語を知らなくても、漢字を見るだけで、
なんとなく魚の姿が想像できそうではないだろうか。

続いて中級編。

・銀魚(ウノ) → アユ
・青魚(チョンオ) → ニシン
・黄魚(ファンオ) → ウグイ

このあたりはちょっと難しい。
色を基準に名付けられた魚が微妙に違う。

銀色の魚なんていっぱいいそうだが、韓国ではアユ。
青魚もサンマやサバではなく、あくまでもニシン。
黄色い魚もけっこういると思うが、川魚のウグイが代表する。
ちなみに白魚(ペゴ)はシラウオで日本と共通。

さらに上級編。

・文魚(ムノ) → タコ
・農魚(ノンオ) → スズキ
・松魚(ソンオ) → マス

こうなるとちょっと想像が難しい。
漢字を見ても、とっかかりがなさすぎる。

漢字にとらわれず覚えてしまえば楽なのだが、
漢字からイメージをつかもうとすると逆に苦労する。
同じ漢字を使っていても、使い方は異なるのが面白い。

そしてここからが本題。

・銭魚(チョノ)

はどんな魚を表すのだろうか。

字面を見れば、銭の魚とずいぶん生々しい。
釣れば釣るほど銭儲けになってウハウハなのか、
それとも少し食べるだけでも銭がふっとんでいくのか。
どちらにしても欲望をかきたてる名前だ。

一応、俗説としては、あまりに美味しいため、
いくらお金を使っても惜しくない魚という意味らしい。
ちなみに日本ではこんな名前の魚。

・銭魚(チョノ) → コノシロ

と書いても、わからない人がいるかもしれない。
もっと馴染み深い名前で書けば、コハダ(小肌)。
寿司店では酢締めにされて出てくる青魚だ。

寿司に詳しい通人が同行者にいれば、

「コハダの締め具合がいちばん店の技量を表す」
「だから最初に注文するネタはコハダが正解」
「コハダがうまけりゃ、後は何を食べてもうまい」

だとか、

「コハダで喜んでいてはまだ甘い」
「夏の短い期間だけ食べられるシンコ(新子)が最高」
「コハダの幼魚で、驚くほど身が柔らかい」

といった薀蓄が聞こえてくる。

幼魚の頃はシンコ、大きくなるとコハダ、
完全に成長したものをコノシロと呼ぶ。
ちなみに旬のシンコは驚くほど高く、
その意味では日本のコノシロも銭魚には違いない。

そのチョノを今回の訪韓で味わってきた。

時折りしも、秋のこの時期はチョノの季節。
日本ではサンマや戻りガツオがにらみをきかせるが、
韓国では断固としてチョノの季節なのである。

街を歩けば刺身専門店の店先に貼紙が出され、

「秋のチョノ入荷しました!」

と元気よくアピールしている。

店頭にしつらえられたいけすの中をのぞくと、
銀色にピカピカ光るチョノが大群で泳いでいる。
シーズンは9月から10月にかけてのわずかな期間だが、
それだけに短い旬を心待ちにする魚好きは多い。

その貴重な旬のチョノを!

今回の訪韓では目いっぱい味わって来た。
これまで何度となくチョノの話は耳にしてきたが、
実際に味わうのは、今回が初めてだったりする。

食べに行くことが決まった瞬間、
あまりの嬉しさに、

「いやっっっほうぅぅぅ!!」

と心の中で雄叫びをあげたのは内緒である。
続いて心の中で、万歳三唱を3セット繰り返し、
あと4回足せば3・3・7万歳という嬉しさだった。

刺身専門店で季節のメニューを見てみると、
チョノ料理は全部で3種類が用意されていた。

・チョノフェ(コノシロの刺身)
・チョノグイ(コノシロ焼き)
・チョノムチム(コノシロと野菜の和え物)

このうちチョノフェとチョノグイを注文。

できればチョノムチムも試してみたいところだったが、
いずれの料理も1人前につきチョノが6~7匹。
韓国ではどの料理もどっさりと出てくるうえ、
この日は2人での食事だったので、またの機会と諦めた。

大皿で出てきた刺身はどっさりと山盛り。
いかにも韓国らしい豪快なボリュームが目を引いた。

そして豪快さはボリュームだけではない。

刺身の切り方も豪快で、内蔵を抜いての筒切りという感じ。
もちろん筒切りといっても、薄く薄くの筒切りである。
背骨ごと切るセコシ(背越し)という技法を使っており、
脂の乗った身とともに、背骨もカシカシ咀嚼することになる。

骨が若干口に触るため、好き嫌いは分かれるが、
韓国では小魚やアナゴなどの刺身によく使われる切り方。
韓国人が喜ぶ、噛みごたえを強調した味わいだ。

刺身の味付けにはワサビを溶いた醤油のほか、
酢とコチュジャンを混ぜたチョコチュジャンも定番。
セコシの場合は特に、味の濃いチョコチュジャンがよく合う。

噛みしめる中に、旬の青魚が持つ豊かな脂の味わいがあり、
中でも特によく運動する、尻尾の部分が美味だった。

続いて出てきたのがチョノグイである。

日本ではコノシロを焼いて食べることはあまりないが、
食べた感想でいえばこちらのほうが印象的だった。

日本でコノシロを焼かない理由については諸説ある。

ひとつは「コノシロを焼く」という表現が、
「この城を焼く」という意味につながるとして避けた説。
もうひとつはコノシロを焼いたときの香りが、
人間を火葬にしたときの臭いに似ているという説。

どちらも俗説だが、なんとなくそれが浸透して避けられ、
コノシロはコハダの段階で酢締めにして寿司に使うもの。
というイメージに固定されてしまったように思う。

実際に焼いたコノシロをたっぷり食べてみたが、
特別に妙な香りがある訳でもなく、上品な味の焼き魚だった。

あまりに美味しかったのでワシワシと食べた。
食べながら思ったのは、ちまちまと少しずつつつかず、
小骨ごとガブッと食べたほうが美味しいということ。
身が柔らかいので、箸で触りすぎるとぐずぐずになる。

頭を取るとともに内蔵を抜き、箸を使って背骨も外す。
その状態で、1匹ぶんをすべてをいっぺんに口の中へ運ぶと、
香ばしい皮と柔らかい身のハーモニーが実に見事。

「これでこそチョノを食べる価値がある!」

と叫びたくなるような発見であった。

一心不乱にチョノを食べながら、冷えた焼酎を1杯2杯。
酔いが回るにつれて、なんとも幸せな気分に浸った。
短い期間しか食べられないのが、実に残念である。

いま考えているのは、日本で食べられないかということ。

日本ではシンコ、コハダばかりが珍重され、
コノシロはこれといって評価されていないのが現状。
探せばどこかで安く手に入るかもしれない。

近いうちにスーパーや鮮魚店、あるいは市場を巡り、
日本でも同じ感動を味わえないかと目論んでいる。
その場合、韓国では冷えた焼酎のストレートが定番だが、
日本で食べるなら、日本酒の熱燗あたりがよさそうだ。

ちりちりに焦げたコノシロをガブリとかじり、
追いかけるように純米酒の熱燗をグビリ。
日本の秋がまた一段と豊かになるような気がする。

すぐ隣にある国が、よく似た四季を持っており、
よく似た食材を、少し違ったふうに食べている。

それを自国の食文化に生かせるとしたら最高である。

韓国料理を楽しむ、裏のメリットとでもいおうか。
韓国料理好きとして生きる道は本当に幸せだ。

一緒に嗜む酒が焼酎でも、日本酒でも。

秋のチョノに乾杯! と心から叫びたい。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
ちなみに今年も秋のマツタケは眺めるだけ。
ソウルでもたっぷり眺めてきました。

コリアうめーや!!第182号
2008年10月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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