コリアうめーや!!第179号

コリアうめーや!!第179号

<ごあいさつ>
8月15日になりました。
テレビをつけるとオリンピック一色です。
1色というか、五輪なのでむしろ5色なのでしょうが、
実際は金、銀、銅の3色しか見えてきませんね。
メダル争いの報道が、ちょいと過熱気味。
4位入賞などは、世界4位だからすごいはずなのに、
まるで価値がないかのように見えてきます。
まあ、僕自身もメダルとなると、おおーと思いますし、
敗退のニュースばかり聞くとガッカリします。
そんな一喜一憂が見る楽しさでもありますけどね。
ともかくも選手には最後まで頑張って欲しいです。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
先日の取材での発見を少し綴ってみます。
方向性はちょっと違いますが、
オリンピックに負けず劣らず熱い話題。
コリアうめーや!!第179号。
取れたてピチピチの、スタートです。

<いまの韓国は国産の韓牛ブームだ!!>

韓国での取材が無事に終わった。
後は机の前で苦しみつつ原稿を仕上げるだけだ。

ここからが大変なのだが一山超えたのは事実。
前号では流行についてもろもろ悩んだが、
それについてもなんとか無事解決した。

今号のメルマガでは、その取材からこぼれ話をひとつ。

流行と呼ぶにはちょっと時事色が強すぎて、
泣く泣く没にしたネタがあるので紹介してみたい。

すでに、タイトルでネタバレをしているが、
テーマとなるのは、韓牛(ハヌ)と呼ばれる韓国産牛。
日本でいう和牛に相当するような単語で、
韓国では最高級の扱いを受けている。

日本の和牛がとろけるような脂肪を売りにするのに対し、
韓国の韓牛はしっかりした噛みごたえの赤身が自慢。
にじみ出てくる肉汁のうまさを味わう牛肉である。

この韓牛が最近になって注目を浴びている。

その理由は日本でも報道されている米国産牛の輸入問題。
米国産牛の輸入を韓国政府はBSE問題以降停止していたが、
2008年4月の合意を受けて再開が決定した。

政府「米国産牛を解禁するよー」
国民「まじで!?」

すると安全性を憂慮した国民はこの決定に大反対。
李明博政権の支持率が低下し、大規模なデモが起こった。

デモの中心地となったのはソウル市庁付近。
ワールドカップのときに、揃いのTシャツを着た人が集まり、
赤い洪水と称された、あの一帯が今度はデモ隊で埋まった。

デモに参加した人たちはキャンドルを手に持ち、
口々に米国産牛の輸入反対を訴える。
そして、このデモの迫力がまたすごかった。

側近「なんかデモがすごいっすよ!」
明博「まじで!?」

キャンドルの火は青瓦台(大統領官邸)からも見えたという。
その景色に衝撃を受けた李明博大統領は対応に奔走。
国民に謝罪をするという事態にまで至った。

だが、一端ついた火はなかなか収まらない。

デモは激化の一途をたどり、取り締まる警察隊と衝突。
近隣にある新聞社やホテルにも突入して看板などを壊し、
中にいる人に暴行を加えるなど暴動にも発展した。

それがちょうど6月下旬のこと。

僕は済州島取材のため大韓航空に乗っており、
機内で手にした新聞の一面を見て驚いた。

新聞「ソウルでデモ激化。○○名負傷」
八田「まじで!?」

こんな時期に韓国に来てよいのだろうか。
一瞬不安になったが、済州島はまったくもって平和だった。
ただし、ソウルでのデモはその後も継続しており、
長期化したことで、さまざまな影響が出ている。

友人「デモでいちばん被害を受けたのは誰だかわかる?」
八田「いや、誰だろう?」
友人「その周囲で営業していた露店商の人たちだって」
八田「あー、なるほどねえ」

友人「デモのせいで人通りがなくなって商売がうまくいかないから」
八田「うんうん」
友人「我々の権利を返せって、露店商の人もデモを始めた」
八田「まじで!?」

友人の話なのでウラは取っていない。
もしかしたらコリアンジョークだったのかもしれないが、
あながち嘘とも思えないのが韓国らしい。

あと、もうひとつエピソードを追加しよう。

今回の取材中、繁華街の屋台を巡っていたとき、
ちょうどデモ隊が行進するところへぶつかった。
規模としてはさほどでもないが、数十人の団体だ。

プラカードを持ち、牛肉輸入再開反対の声を上げながら、
夜の繁華街を練り歩いている、という感じである。

僕とカメラマンさんは、道の端でデモ隊をやり過ごす。
だが、2人ともけっこう目立つカメラを首から提げており、
おそらく取材に来た記者と勘違いされたのだろう。

デモ隊からひとりの男性がするすると近づき、

「記者ですか?」

と尋ねた。
ちょっと粘っこい感じの口調で、
明らかに不信感を持たれているようだった。

これはまずい、と思った僕は、

「いえ、違います。違います!」
「日本から来た雑誌社の者で、デモとは関係ありません!」
「ガイドブックの仕事で屋台の取材に来ています!」

と慌てながら言い訳をした。
日本人であるということが、逆効果を生むかもと心配したが、
それを聞くと、男性は何も言わないまま隊列に戻った。

驚いたのは屋台取材を終えて翌朝である。
ニュースを見ていたカメラマン氏が僕に言った。

カメ「なんか昨日のデモで記者が殴られてるね」
八田「まじで!?」

同じデモ隊との衝突だったかはわからないが、
取材に出た新聞記者が被害を受けたらしい。

ひとつ対応を間違えたら本気で危なかった。
僕らはこっそりデモ隊の写真も撮っていたので、
詳しく問い詰められたら、本当に言い訳が効かなかった。

さて、そんな感じにデモと背中合わせの取材。
米国産牛肉輸入問題についての詳細な経緯については、
興味のある人が個々人で調べてもらうこととして。

語りたいのは、そこから波及した韓牛ブームについて。

米国産牛への反発から、国内産牛の評価と需要が高まり、
愛国心も手伝って、ちょっとした韓牛ブームが起こっている。

また、ちょうど2008年7月から法律が変わって、
牛肉の原産地表示が飲食店にも義務付けられた。
牛肉をメイン食材としている店だけでなく、
副菜として出している場合でも、産地を明示せねばならない。

決まったばかりで、どの店も対応に苦心しており、
既存メニューにマジックで書き加えただけの店も多い。
それぞれ国内産、豪州産、メキシコ産などと表示しつつ、
中には、

「当店は国内産韓牛だけを使用しています!」

といった貼り紙を店頭に掲げる店もある。

これまでは韓牛を使った牛肉料理というと、
焼肉を中心に、肉そのものを食べる店の印象が強かった。
だが、産地表示が義務付けられたことで、
韓牛を使っている店は、ここぞとばかりに宣伝しているようだ。

韓牛の骨を煮込んだスープのソルロンタン。
韓牛の骨を煮込んだスープをベースに作る冷麺。
韓牛のホルモンを焼いて食べるコプチャングイ。

こういった店がぐっと注目を集めている。

ただし、その一方で、韓牛そのものの値段が急騰。
近年の物価高の影響もあって、日本の感覚で見ても、

「ずいぶん高いなぁ……」

という感じだ。

家族で行くような焼肉店のメニューを見ても、
1人前(180グラム)の値段が3万ウォンを超えていた。
1皿が日本円にして3000円を超える計算。
こうなってくると、いくら韓牛でも手が出にくい。

いまはプチ韓牛ブームに沸いているが、
ひと山越したら、この価格で大丈夫なのだろうか。
思わずそんな心配をしてしまうほどである。

しかも、この値上げは飲食店側が儲けている訳ではなく、
韓牛人気が上がり、仕入れ価格が上昇しているためらしい。

産地表示のために韓牛へ切り替えた店もあることだろう。
韓牛そのものが品薄になり、価格が上がっているのだとしたら、
正直、誰が得しているのか、よくわからないブームだ。

そんな中、ひとつの象徴的な韓牛商品を見つけた。
韓国で何かが流行る旅に、すぐさま反応する敏感な企業。

ロッテリアが「韓牛プルコギバーガー」を出している。

日本ではマクドナルドの影に隠れて地味な存在だが、
韓国では自国企業だけあって、街中でもずいぶん目立っている。
個性あふれる商品も多く、特に期間限定には強い。

サッカーW杯を控える2001年にはキムチバーガーを発売。
当然ともいえる「世界初!」の触れ込みで話題をさらった。

2004年のウェルビンブーム(ヘルシーブーム)では、
ファストフード受難の趨勢だったが、これを逆転の発想で利用。
ライ麦パンとパインを具に加えたウェルビンバーガーを開発。
逆風を順風にかえる豪腕で、大きな危機を乗り越えた。

激辛ブームに沸いた時期も、激辛バーガーを製作して便乗。
時代の流れには、必ず相乗りしてくる姿勢が実に見事だ。

韓牛プルコギバーガーは韓国産の韓牛だけを使用。
同時に他の牛肉も、安全な豪州産だとアピールしていた。
これまた逆風を順風にかえようとする戦略だろう。

実際に韓牛プルコギバーガーを食べてみたが、
確かに焼肉を思わせる香ばしい風味が際立っていた。
豪州牛に比べて、そこまで明確に違うとも思えなかったが、
ボリュームもあり、贅沢さを感じるバーガーである。

単品で1個5000ウォン(約500円)と高いが、
見ていると、それなりに売れているので好評なのだろう。

米国産牛肉輸入問題から、デモ、そして韓牛人気。
それぞれの思惑が交錯する中で、どんな結末に至るかはわからないが、
こういう企業がプラス思考でいるのは頼もしい。

誰が得をするのか、見えにくい状況だが、
たぶんロッテリアは今回も勝ち組に入る気がする。

いついかなる状況下でも新商品で立ち向かう。

そんなロッテリアのたくましい商魂に拍手を送りたい。

<お知らせ>
仕事が忙しくHPの更新ができません。
落ち着いたら、まとめて更新したいと思います。
http://www.koparis.com/~hatta/

<八田氏の独り言>
ロッテリアを見ると時代が見える。
冗談抜きで最近そう思うようになりました。

コリアうめーや!!第179号
2008年8月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com



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