コリアうめーや!!第146号
<ごあいさつ>
4月になりました。
新年度であり、新学期でもあり、
そしてエイプリルフールでもあります。
毎年、どんな嘘をつこうか考えているうちに、
結局、何事もなく終わってしまう寂しい日です。
上手な嘘をつけた人。きれいに引っかかったひと。
エイプリルフールを満喫できた方は、
いったいどのくらいいるのでしょうか。
せっかくのユニークなイベントデー。
有効に活用できたらといつも思います。
さて、そんな中、今号のメルマガですが、
ちょっと変わったテーマを設けてみました。
韓国料理を語るメルマガでありながら、
ほとんど韓国料理の話が出てきません。
これは本当に「コリアうめーや!!」なのか。
みなさんも一緒に悩んで頂ければ幸いです。
コリアうめーや!!第146号。
小さな疑問を残しつつ、スタートです。
<韓国の日本料理は鋭くなっているのか!!>
海外に出ると日本料理が恋しくなる。
というのはあえて書くまでもない話だが、
実際に海外で食べる日本料理はなかなかに感慨深い。
最初の頃は珍しさで現地の料理に飛びつくものの、
次第に胃腸も疲れてきて、慣れた味を欲するようになる。
長期の海外旅行や、外国に滞在した人であれば、
まず例外なく食のホームシックに見舞われた経験があるだろう。
自分が日本人だということを自覚する瞬間だ。
すぐ隣の国にしか行かない僕も例外ではない。
特に僕の場合は日本でも日常が韓国料理三昧。
韓国に行って、また韓国料理ではさすがに気が滅入る。
「たまの韓国旅行くらい日本食を食わせろ!」
という妙なかんしゃくに襲われることもある。
先日出かけた1月の訪韓でもやっぱりそうで、
1週間ほどの滞在中、日本料理を2度ほど食べてきた。
「それで本当にコリアン・フード・コラムニスト?」
という疑問の声もあがることだろうが、
そもそも誇張した冗談なので深く問い詰めないで欲しい。
さらっと読み流す、寛容な姿勢を求めたい。
ただ、欲求にかられてかどうかはともかくとして、
海外で食べる日本料理というのは意外に楽しい。
「これは本当に日本料理!?」
といったキワモノを愛でるのも楽しいし、
予想外に本格的な日本料理が出てきて喜ぶのもいい。
かつて、ネパールを1ヶ月ほど旅行したことがあるが、
そのときに食べた、カツ丼などは特に印象深かった。
ちょうど長い滞在に疲れ、日本の味に飢えていた頃。
やっと見つけた日本料理レストランに大喜びで駆け込んだのだが、
出てきたのは、どこがカツ丼なんだという代物だった。
インディカ米のごはんにキャベツの千切りが乗り、
その上には黒コゲとなった一口トンカツがコロコロ。
もちろん卵でとじるなどという器用さなどはなく、
黄身の固まった目玉焼きが2個、でんと乗せられていた。
「こ、これがカツ丼ですかい!?」
と驚いたが、味のほうはそれなりに悪くなかった。
キワモノ日本料理には違いないが、話のネタとしては充分。
大学1年の頃だから、すでに10数年前の話だが、
当時の驚きは、今でも記憶の中で鮮明なままだ。
それと比べると、韓国はさすがに隣国。
値段は多少張るものの、充分まともな日本料理が食べられる。
特に最近は、回転寿司やさぬきうどんなどがブームとなり、
街中には日本料理の店がたくさん立ち並んでいる。
留学時代は、
「こんなものは日本料理じゃない!」
と憤慨し、暴れていたこともあったが、
今回食べてきた日本料理も、ずいぶん本格的で驚いた。
韓国における生の日本料理事情をお届けしよう。
話は釜山に到着して3日目の夜のこと。
釜山に住む日本人の友人と会って飲むことになった。
待ち合わせをしたのは、釜山でいちばん賑やかな西面(ソミョン)。
繁華街なので、どこに出ても飲むには困らない。
ただ、僕に土地勘はないので、場所は友人に任せた。
「どんなところがいい?」
「全面的にお任せします!」
特に目的のないときは任せてしまうのがいちばん。
下手にリクエストをすると、選択肢が狭まってしまい、
結果として、美味しいものを逃すことがある。
住んでいる人がすすめる最高のチョイスであれば、
どんなものを食べに行っても外れることはまずない。
だが、その友人は、しばし首をひねって悩んだ後、
「んーと、日本料理だったらどう?」
という予想外の角度からオススメを返してきた。
「に、日本料理!?」
思いもよらぬすすめに一瞬とまどう。
何しろ僕は日本から来たばかりの旅行者である。
また、韓国料理を専門としてさまざまな文章を書いている。
いわばここでの食事もすべて取材であり、今後の仕事に直結する。
そしてその友人もそんな僕のことをよく知っているのだ。
にもかかわらず、いのいちばんに出てきたのが日本料理。
「いや、ちょっと何か別の韓国料理を……」
と言いかけたが、僕はそれをぐっと我慢して飲み込んだ。
現地在住の友人に任せるのなら、それが日本料理でも任せるべきだ。
おそらくすすめるだけの何かがあるのだろう、ということで、
「いいねえ、行きましょう!」
と2秒遅れの笑顔できっぱりと答えた。
友人の案内でやってきたのは居酒屋風の店だった。
というより、むしろ居酒屋そのものといった風体である。
看板には「炭火地鶏焼」という文字が刻まれ、
その横には日本語で「とりとり亭」と書かれている。
どこからどう見ても日本の焼き鳥居酒屋だ。
中に入っても、まるで韓国にいる気がしない。
店員さんは韓国人で、壁に貼られた短冊もハングルなのだが、
それ以外はすべてが自然な日本スタイルに染まっている。
赤ちょうちんや、日本人形といった過度な装飾品もない。
日本らしさを無理に出すのではなく、普通に日本らしいのだ。
韓国にもこんな店が出来たんだなあ、と素直に驚いた。
「最近よくここに来るんですよ」
と釜山在住の友人が笑う。
本格的な日本料理が味わえるということで、
韓国人の友人にも評判がいいらしい。
なるほどねぇ、とあいづちを打ちながら飲み物の注文。
「すいませ……」
と言いかけて韓国であることに気付き、
「んんっ、んっ、んんっ。よ、よぎよー!」
不自然な咳払いをした後に、韓国語で店員さんを呼んだ。
あまりに日本的な店内なので、逆に韓国語のほうが違和感がある。
注文ひとつするにも、頭の切り替えがややこしい。
とりあえず最初は普通の生ビールを注文したが、
熱燗やサワー、アサヒの生ビールも置いてあった。
ドリンクメニューもしっかりと日本的だ。
料理のほうも地鶏専門店だけあって豊富である。
焼き鳥をはじめとした串焼きが多いのはもちろんのこと、
それ以外にも、
・ささみのゴマドレッシング
・おろしポン酢チキンカツ
・鶏のモモ焼き(柚子胡椒添え)
・チキン南蛮
・チキンカツ丼
・鶏照り焼き丼
・鶏雑炊
といったラインナップの料理があった。
この時点で、すでに日本の居酒屋と遜色ない。
新宿あたりの地鶏ダイニングにでもいるようだ。
個人的に嬉しかったのはチキン南蛮があったこと。
チキン南蛮は宮崎県の郷土料理であり、
チキンカツに甘酢ソースとタルタルソースがかかっている。
カリッとしたカツの歯触りとソースの相性が抜群。
こってり味だが、甘酢の酸味が効いている。
宮崎県を中心とした九州地域ではよく食べるようだが、
東京ではあまり食べることはなく、昔はほとんど見かけなかった。
僕がこの料理を初めて知ったのは中学生の頃で、
漫画「クッキングパパ」に載っていたのがきっかけだった。
長い間の憧れの料理で、大学時代に初めて九州の地を踏み、
チキン南蛮を食べたときの感動は今も忘れられない。
そのチキン南蛮を今は韓国で食べられる。
「いい時代になったなぁ……」
としみじみ思った。
チキン南蛮以外の料理も実に本格的であり、
シメの丼、鶏雑炊まで、すべて美味しく食べてきた。
地鶏料理と韓国の焼酎も相性はなかなかだった。
鶏のモモ焼きに柚子胡椒をなすりつけてガブッとかじり、
一呼吸置いて、冷えた焼酎のストレートをぐっと飲む。
ちょうど釜山地域の焼酎は度数の低下が進んでおり、
20度前後から、16.9度まで下げられたばかりだ。
もはや日本酒とほとんど変わらない。
気付けば気持ちよく酔い、満腹になっていた。
釜山在住の友人は、実によい店を紹介してくれたのだった。
韓国の日本料理も確実に鋭くなっているのである。
という話を、ソウルに行って別の友人にした。
話の流れから、じゃあ日本料理の店に行こうかとなり、
大学路(テハンノ)という繁華街で日本居酒屋を探してみた。
知っている店は特になかったので、繁盛している店に入る。
「そのチキン南蛮が美味しくてねぇ……」
などという話を続けつつ、まずはドリンクの注文。
ちょうど寒い日だったので、熱燗を大徳利でつけてもらった。
そして、おつまみには同じく冬らしいオデンを頼む。
「地鶏料理と釜山の焼酎がまたよく合うんだ……」
自慢気に語りながら、おちょこに熱燗をとくとく注ぐ。
どうやらかなりアツアツの温度につけてあるらしく、
徳利を持つのも一苦労であった。
「シメに食べたチキンカツ丼もよかったなあ」
小さなおちょこをカツンと当てて乾杯。
冷えた身体を温めるべく、ぐーっと1杯目をあける。
「韓国の日本料理も確実に鋭くなって……げ、ゲホッ、ゲホッ」
熱々燗の日本酒を飲んだら瞬間的にむせた。
「なにこの日本酒!?」
アルコールが鼻につき、味も嫌な感じにベタベタ甘い。
しかもよく見ると、大徳利のサイズがずいぶん小さかった。
2合どころか、せいぜい1合ちょっとといった感じ。
それでいて値段は日本で飲む吟醸酒並みである。
直後にオデンも運ばれてきたが、こちらはなぜか青唐辛子が入っている。
居酒屋でよく見る、小型の固形燃料式コンロに乗り、
見てくれだけは本格的だが、肝心の味のほうが伴っていない。
昔からある、雰囲気だけの日本料理店であった。
店を出る頃には、
「やっぱり韓国で食べる日本料理はこんなもんだよね」
という正反対の意見になっていた。
韓国で食べる日本料理は確実に鋭くなっている。
ここ数年、日韓の交流が深まるにつれて、
食分野での交流も、急速に活発化している。
だが、その一方で旧来的な日本料理もまだまだ残る。
近くてもやはり外国であり、日本と完全に同じは難しい。
その意味では、期待を感じさせる発展途上という段階だろうか。
そして、もちろんその逆もある。
日本における韓国料理もだいぶ鋭くなってきた。
街中で韓国料理店を見る機会は、ここ数年で格段に増えたし、
本場と遜色ない韓国料理も食べられるようになった。
まだまだ旧来的なものも多いかもしれないが、
食分野における垣根はかなり低くなったように思う。
日韓を行き来する人が増え、本物を知る人も多くなった。
今後はさらに本物が求められる時代が来るだろう。
そんな未来に心からのエールを送りたい。
もっと鋭くなれ。
韓国の日本料理と日本の韓国料理。
<おまけ>
メルマガに登場したお店データ
店名:とりとり亭
住所:釜山市釜山鎮区釜田洞168-214
電話:051-807-5866
HP:なし
<お知らせ>
日本料理の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
新しい本が発売になっています。
『韓国語会話超入門!ハングルペラペラドリル』
書店では『ハングルドリル』と並んで置かれています。
おかげさまで『ハングルドリル』も大幅増刷になりました。
『ペラペラドリル』もぜひ続いて欲しいものです。
本の詳細についてはコチラをご参照ください。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-412.html
アマゾンなどでも好評発売中です。
http://www.amazon.co.jp/dp/4054032931/
<八田氏の独り言>
「とりとり亭」は中京圏で展開するチェーン店。
初めて釜山に上陸したとのことです。
コリアうめーや!!第146号
2007年4月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com