コリアうめーや!!第145号
<ごあいさつ>
3月15日になりました。
徐々に気温が高まり、春の訪れを感じます。
桜が咲くのも、もうすぐというところでしょうね。
早く気持ちのいい花見酒を飲みたいものです。
そして、実はこのメルマガがなんと記念号。
コリアうめーや!!の創刊より丸6年となります。
韓国料理の話を書き続けて、いよいよ7年目に突入。
よくもまあ、これだけ続いたものですよね。
これもひとえに読者皆様のご愛顧のおかげ。
今後も美味しい韓国料理の話をバリバリ書きますので、
ぜひとも末永くお付き合いが出来ればと思います。
コリアうめーや!!第145号。
めでたい麺料理の話で、スタートです。
<ザバザバずるずる食べたいククスとククシ!!>
「ククスが食べたい」
僕がそうボソッと呟いたとしたら、
人はおそらく2種類の反応を見せることだろう。
ひとつは、
「ふーん、八田氏おなか空いてるんだね」
という至極ノーマルな反応。
そしてもうひとつは、
「あら、八田氏ったら。クス」
というちょっと笑いの混じる反応である。
ちなみにこの場合の「クス」は通常の笑みより冷ややかで、
どちらかというと失笑、苦笑に近い「クス」だ。
口の端に手を当てて、軽く鼻で笑うようなイメージ。
とはいえ、そこまでバカにした感じでもない。
仕方ないねえ、というくらいの反応だ。
ククスは韓国で食べられている麺料理のひとつ。
麺そのものを指す総称的な単語としても使われるが、
この場合は素麺によく似た細麺を、ダシ汁で食べる料理を指す。
煮干でダシをとり、薄い醤油味にあっさり仕上げた料理だ。
さっと作ってさっと食べる手軽な料理であるため、
簡単な食事として以外にも、人が大勢集まる席で作られる。
別名をチャンチククスとも言い、チャンチが宴会を表す。
直訳すれば「宴会麺」となる、おめでたい料理だ。
そしてその宴会のもっとも代表的な例が結婚式。
ククスは古くから結婚式の定番料理であり、
麺の長さから、末永く幸せにという意味もある。
従って韓国では、
「キミはいつククスを食べさせてくれるのだ?」
という問いが、いつ結婚するんだという意味になる。
僕が冒頭で呟いたセリフも、実際にそういう使い方は少ないが、
麺が食べたいだけでなく、結婚したいという意味にもとれる。
ということから前者で反応すれば「ふーん」であるし、
後者で反応すれば「クス」になる。
どちらにしても「飢えている」ことに違いはない。
というようなよくわからない話をまず置いといて、
今号のメルマガはそのククスがテーマである。
1月に釜山へ行って、美味しいククスを食べてきた。
連れて行ってくれたのは、もはやメルマガの順レギュラー。
第140号でルイヴィトンのベルトを所望されたお父さんである。
長く東京で韓国料理店を営んでいた方で、昨年夏に帰国されたばかり。
1月の旅行でも釜山滞在中はずっとお父さん宅に泊めて頂いた。
ククスを食べに行ったのは到着して2日目の午後。
2時、3時という半端な時間ではあったが、
「ククスを食べに行くぞ!」
というお父さんの唐突な宣言によって、
居間でくつろいでいた面々が、わらわらと駆り出された。
お母さんと、娘さん、そして孫にあたるその次男。
僕を含めて5人のパーティでククスを食べに出かけた。
なお、この日は夜に刺身を食べることも決定されており、
その意味でも実に発作的な出発であったと言える。
ククスの店に向かう車中、お父さんはすこぶるご機嫌だった。
「そこのククスが実にうまくて安いんだ!」
「しかもバイキング方式だから食べ放題ときた!」
「昼時には大混雑して行列ができるくらい!」
僕はその話を聞きながら、ほほうと感心していた。
ククスは確かに宴会用のめでたい料理だが、
数ある韓国料理の中では、どちらかと言うと地味な存在である。
安さと手軽さが魅力で、あまり凝るところも少ない。
ソウルにも有名なククスの専門店がいくつかあるが、
僕もこれまで意識して行ったことはほとんどない。
そのククスを、これだけ熱く語るというのも珍しい話。
午後の半端な時間にもかかわらず、無性に食べたくなるというのも、
それだけの美味しさがあるからなのだろう、と思った。
出発前にさほどでもなかった料理の期待は、
店が近づくにつれて、僕の中で大きく盛り上がっていった。
同時に、お父さんのテンションも高まる一方である。
「その店は金海国際空港から近い場所にあってな!」
「釜山に着いたらすぐ、その店に行く日本人もいるくらいだ!」
「昔は梨畑しかない、なーんにもないところだったんだけどな!」
「今はその店のために、たくさんの人が来るんだ!」
その語り口はまるで自分の店の自慢をするよう。
なので、
「その店には昔から通っているんですか?」
という僕の問いに対して、
「ん? いや、こないだ初めて行って今日が2度目」
という若干、不安な会話があっても気にしない。
よっぽど衝撃的な1度目だったのだろうと解釈した。
ククスの店に着くと、そこはだだっ広い荒野だった。
かつて梨畑だったという話がよくわかるような広大な土地。
駐車場だけでも数百人が1度にラジオ体操できそうだ。
「混雑時にはな、ここが車でぎっしり埋まるんだ」
と、お父さんが教えてくれる。
2度目なのに、なぜそんな事情に詳しいのだろう、
という疑問はさておき、店の中へと入る。
この日は時間が時間なので店はさほど混んでいない。
2、3組の先客が、ずるずるとククスをすすっていた。
店のシステムは至ってシンプルである。
中学生から大人は1人3500ウォン。
小学生は1人2000ウォン、で幼児は1000ウォン。
(※:1000ウォンは130円程度)
それを入口のカウンターで先払いすれば、
後は店にあるものすべてが食べ放題だ。
看板料理のククスは当然のごとく麺も具も食べ放題。
中央にはキムチやナムルといったおかず類がずらりと並び、
大きな炊飯器にはごはん、その横には魚の煮付けもある。
「あそこにはカボチャ粥もあるからな!」
というお父さんのセリフも飛んでいたが、
よく見るとそれは大鍋で煮込んだカレーであった。
「どこがカボチャ粥よ。カレーじゃないの!」
というシビアなお母さんの突っ込みが入っていたが、
そんな誤解をさておいても、料理の種類は豊富な店だ。
ククスのバイキングは1ヶ所に固められており、
デコボコしたアルミの鍋を手に取るところから始まる。
麺や具、薬味が並べられているのでそれを順に取る。
麺は2人前(2玉)くらいガバッと入れたほうが美味しい。
具は湯がいた青菜に、刻んだタクアン、刻み海苔など。
薬味醤油か、トウガラシの入った薬味ダレでアクセントをつけ、
そこに煮干の味がきいたダシ汁を張って出来上がりだ。
キムチやナムルも好きなだけ皿に盛ってテーブルに運ぶ。
もちろん一緒にごはん系の料理を食べてもいい。
好きな料理を好きなだけ、というのがバイキングの楽しさだ。
ククスをすすってみると、実に懐かしい味わい。
ほんのり温かいにゅうめんといった感じだが、
韓国的に唐辛子が入っているのでピリッと辛い。
煮干でとったダシの味もふんわりと香りがよく、
目立たない程度に醤油、砂糖系の甘味が加えられている。
麺は茹でてから時間がたっているようでコシこそないが、
むしろその柔らかさで、ザバザバずるずると食べ進められる。
気取らず、短時間で食べる、立ち食い蕎麦的な魅力だ。
気付くと鍋から麺2玉がペロッと消えていた。
横ではお父さんが、
「俺は3玉食べたぞ!」
と満足そうな笑顔で笑っていた。
さて、これでこの話はこれでおしまいなのだが、
最後のオマケとして、ソウルで食べたククシの話をしたい。
ククシというのはククスの慶尚北道方言。
慶尚北道は良質の小麦がとれる地域で、ククシが名物なのだ。
釜山で食べたククスがあまりに美味しかったので、
何か似たイメージの料理、ということで足を運んでみた。
かつて友人から教えてもらったククシの専門店。
メニューはきっぱりとククシひとつしか置いておらず、
営業時間も11時から15時までの4時間しかない。
昼食営業しかしない、こだわりの専門店なのだ。
この店のククシは、釜山のククスよりも麺が太く、
細めのウドンといった感じのサイズである。
生地には黒豆が練り込んであり、灰色がかった見た目。
牛骨でとった濃厚スープに麺を入れて食べる。
牛のうまみを活かした薄い塩味のスープなので、
味付けはタデギ(唐辛子ペースト)で調節して食べる。
この料理がなかなかに感動的だったのだが、
その詳細をフェイント気味に、ひょいとスルーしてみたい。
料理そのものよりも、強く語りたいことがひとつ。
それは店の入口。しかも裏口。
「ククシもすごかったが裏口がすごかった!」
と僕はフォントを大にして語ろう。
大通りから1本入った路地の先に店の裏口があるのだが、
その路地の幅がすさまじく、人ひとりやっと通れる程度しかない。
下手したら、人がそこに挟まるのではないかというレベル。
どんなに細い人でもすれ違うのは絶対に不可能だし、
ふくよかな人であれば、身体を横にしないと入れない。
スリムな僕も、たまたまその日は「着ぶくれ!」していたため、
身体を若干ナナメにしながら通ったくらいである。
表玄関は別にあって、そちらは広い入口なのだが、
大通りからだと、かなり路地を迂回して行かねばならない。
路地自体が複雑なので、行くのはけっこう難しい。
道の細さから楽しむ意味でも、裏口ルートがオススメだ。
その道を見た瞬間、僕は身体に電流が走った思いがした。
あまりの狭さに、もう笑うしかないのだ。
身体から力がヘナヘナ抜けていくほどに笑える。
裏口とはいえ、到底、飲食店に続く道とは思えない。
「これは絶対にメルマガで伝えねば!」
と思ったことをよく覚えている。
おそらく、じかに会った人にも熱く語るだろう。
そしてそのテンションは……。
うん、きっと車中のお父さんと同じくらいだ。
<おまけ>
メルマガに登場したお店データ
店名:大渚ハルメククスチプ
住所:釜山市江西区大渚1洞332-18
電話:051-973-0837
HP:なし
店名:ソンカルグクシチプ
住所:ソウル市鍾路区安国洞160-2
電話:02-734-4632
HP:なし
<お知らせ>
ククス&ククシの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
新しい本が発売になりました。
『韓国語会話超入門!ハングルペラペラドリル』
書店では『ハングルドリル』と並んで置かれています。
おかげさまで『ハングルドリル』も大幅増刷になりました。
『ペラペラドリル』もぜひ続いて欲しいものです。
本の詳細についてはコチラをご参照ください。
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-412.html
アマゾンなどでも好評発売中です。
http://www.amazon.co.jp/dp/4054032931/
<八田氏の独り言>
冒頭に書いた「ククス」の豆知識。
実は「ククスでクス」というダジャレにしたかったのです。
コリアうめーや!!第145号
2007年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com