コリアうめーや!!第137号
<ごあいさつ>
11月15日になりました。
いつの間にやら、外の空気が冷たくなり、
すっかり冬の訪れが近づいてきました。
ドアを開けて、外に出るその瞬間、
顔にあたる空気の冷たさに驚かされます。
冬服や暖房器具の準備も本格的に必要ですね。
あったかい鍋料理なども恋しい季節です。
さて、メルマガのほうは第137号。
今号では、ひとつ大きなお知らせがあります。
本文中でも存分に書いておきましたが、
ついに韓国料理の本を出すことになりました。
これまでも韓国語の本は出してきましたが、
韓国料理に関する本はこれが初めて。
僕にとっては待ちに待った1冊です。
その喜びを表しつつ、今号のメルマガでは、
チャジャンミョンという麺料理がテーマですが、
あちこち宣伝まじりの内容となっております。
コリアうめーや!!第137号。
どうかご容赦頂きたい、スタートです。
<紹介ちょっと変わったチャジャンミョン!!>
第114号でも少し紹介をしたが、
昨年の春に、師匠と呼べる人に出会った。
韓国料理を探求する立場としてはるか先を行く人。
同じ日本人で、ここまで詳しい人がいるかと驚いた。
前回は名を伏せたが、名前を佐野良一さんという。
今度、その佐野師匠に監修者となって頂き、
韓国料理に関する本を出すことになった。
タイトルは『魅力探求!韓国料理』。
小学館より11月30日発売予定(1575円)。
現在は書店、ネットなどで好評予約受付中だ。
僕にとっては本当に嬉しい待望の1冊。
留学から戻り、このメルマガを書き始めて約5年半。
やっと念願がかなったという気分である。
本の詳細な内容については、読んでのお楽しみとするが、
ここでは後日談的な話を、ひとつ紹介してみたい。
その本の中で、僕はシンゲッチなる料理について書いた。
このメルマガでも、ごく初期の第5号で取り上げている。
シンゲッチは調理したインスタントラーメンのアレンジ形で、
日本でも有名な、辛ラーメンに卵とチーズを加えたもの。
ソウルの新村という町にこれを開発した店があり、
現在は店名も「シンゲッチ」にして人気を集めている。
留学当時、近所に住んでいた僕は、よくこれを食べていた。
その話を監修者として読んだ師匠が、
校了日の後に、僕の携帯電話を鳴らして言った。
「あのシンゲッチはどうやって作ったらいいのかな?」
普段はインスタントラーメンなどまず食べない師匠である。
ちょうど頂きもので、手元に辛ラーメンがあるとのことだったが、
まさかシンゲッチにチャレンジされるとは予想外であった。
師匠の飽くなき探究心に深く感動しつつ、
僕は知る限りの作り方を、余すところなく伝えた。
と言っても難しいことなど何もない。
普通に作った辛ラーメンに溶き卵を流し入れ、
最後にペタッと1枚、スライスチーズを乗せるだけだ。
ラーメンにチーズというとゲテモノ感もあるが、
実際はすぐに熱で溶けてしまうので気にならない。
味噌ラーメンにバターを少量入れたりするように、
スープにほんのりとしたコクが加わるだけだ。
この簡単なひと手間で、留学時代の懐かしい味がよみがえる。
ただ後日、師匠に感想を聞いたところ、
「美味しいもんじゃないな」
の一言で一蹴されてしまった。
韓国で朝鮮時代の宮中料理を学んだ師匠である。
やはりというか、口に合わなかったようだ。
こうした見事なダメ出しは本の中でも展開されており、
熱意のみで迷走する僕を、巧みに誘導してくださっている。
学生街のシンゲッチから、朝鮮時代の宮中料理まで、
幅広い韓国の食文化を紹介した、素晴らしい1冊となった。
といったあたりで冒頭ネタを兼ねた本の宣伝は終了。
3回転半ひねりの荒技で、今回のテーマへと移る。
語りたいのは、ちょっと変わったチャジャンミョンだ。
チャジャンミョンとは炒めた黒味噌を麺にかけた料理。
いわゆるジャージャー麺のことで、韓国では中華料理の代表格だ。
チャジャンは「炸醤」と書いて炒めた味噌。ミョンは「麺」。
ポピュラーな外食メニュー、出前メニューのひとつであり、
僕も留学時代は、授業後の昼ごはんなどによく食べた。
それだけならごく普通のありふれた話なのだが、
当時、行き着けの1軒に不思議なチャジャンミョンがあった。
料理名をムルチャジャン、またはノランチャジャンといい、
ムルは水、ノランは黄色いという意味を表す。
韓国のチャジャンミョンといえば真っ黒が普通だが、
その店には水気が多く、黄色いチャジャンミョンがあるのだ。
新村の大通りから路地に入った「福盛閣」という店だった。
留学時代は特に何の疑問もなく食べていたが、
後になって、他店にはない特別な料理だとわかった。
それを知って、もう1度食べに行ったのは2005年夏。
実に5年ぶりで、留学時代の味を再確認しに行った。
店は大学のすぐ前なので、いつも学生でごったがえしている。
賑やかな店内で思い出に浸りながら、ムルチャジャンを頼んだ。
ほどなく、店のお姉さんによって運ばれてきたその料理を見て、
その懐かしさに思わず涙腺が緩み……ということはなく、
「あれ、こんな料理だったっけ!?」
というのが正直な感想であった。
どうやらムル(水)チャジャンという名前を意識しすぎたらしい。
ほとんど透明に近い、水のような色の麺料理を予想していた。
言うなればタンメンのような白湯スープのあんかけ料理。
だが出てきた料理には、茶色くどろっとしたあんがかけられている。
この5年間というもの、僕はことあるたびに、
「新村で食べたムルチャジャンが美味しかった!」
と語ってきたのだが、どうやら明らかに嘘である。
僕は自分の頭で作り上げた、妄想の料理を褒めていたらしい。
茶色いムルチャジャンを見ながら、しばし呆然となった。
うむ。記憶だけで語ると、これがあるからいけない。
自分の過ちを反省しつつ、気を取り直して味の確認に移る。
まずは麺の上にかかったあん(チャジャン)を舐めてみる。
ベースとなっているのは、鶏ガラスープのようだ。
そして鶏のうまみの影には、炒めた味噌の風味もある。
おそらく普通のチャジャンミョンに使う味噌をスープでのばし、
そこに水溶き片栗粉を加えて、とろみをつけたのだろう。
なるほど。ムルチャジャンのムル(水)はスープの意であったか。
そして色が薄まることによって、黒い味噌が茶色いあんに変わり、
これをこの店ではノラン(黄色)チャジャンとも表現したのだ。
記憶とはまったく違った外見の料理であったが、
情報のピースはすべてがピタリピタリとはまった。
全体をよくかき混ぜてから、じっくり味わってみると、
汁気が多いせいか、あんかけそばのようで美味しい。
韓国式中華料理の1品ながら、日本のラーメンをも思わせる。
留学時代に僕がムルチャジャンを好んで食べていたのは、
どこか日本的な味わいを求めていたからかもしれない。
「うん、やっぱり懐かしいな……」
食べ進むにつれて、そう感じるようになっていた。
さて、そして話はこれだけで終わらない。
「福盛閣」にはさらに珍しいチャジャンミョンがあるのだ。
おそらく店の人は、黄色があるなら他の色もと思ったのだろう。
韓国語でパルガンチャジャン。赤いチャジャンミョンもある。
留学時代に赤バージョンを食べた記憶はないが、
黄色を食べたら、当然赤色も制覇せねばならないだろう。
ということで後日、パルガンチャジャンも食べに行った。
こちらは韓国らしく唐辛子がたっぷり入っている。
おそらくベースはムルチャジャンの鶏スープと同じだろう。
麺の上に、赤いあんをどろっとかけて食べる料理だ。
タマネギ、ニンジン、エビなどの具が入っており、
とろみもついているので、エビチリ的な雰囲気でもある。
あるいは韓国式のチャンポン風とも言える気がする。
韓国のチャンポンは、長崎ちゃんぽんと似ているが、
唐辛子がどっさり入って真っ赤に作るのが普通なのだ。
ピリ辛の味わいで、美味しいことは美味しいが、
色的にもチャジャンミョンらしさは失われた気もする。
「これはちょっとやりすぎかもな……」
との印象を受けたが、さらに驚いたことに。
黄色と赤色だけでなく、青色もあるのだ!
入口に店を紹介する新聞記事が貼られているのだが、
そこには青いチャジャンミョンが試作段階にあると書かれていた。
確認したところ、メニューにはまだ載せられていなかったが、
そのうち実際に販売も始める予定なのだろう。
青いチャジャンミョンと聞くと、いかにも毒々しい感じだが、
実際には青色といいつつも、緑色のチャジャンミョンのようだ。
ホウレンソウやエンドウマメを利用した野菜風味。
そう聞くと、それなりにヘルシーな感じでもある。
ともかくも、これで3色チャジャンミョンということらしい。
味うんぬんはともかく、3色並んだ光景は1度見てみたいものだ。
以上が変わったチャジャンミョンについての話なのだが、
書き進めていくうちに、さらなるひとつを思い出した。
前述のシンゲッチには、チャジャンミョンバージョンもあるのだ。
チャジャンミョンにもやはりインスタント商品があり、
スパゲティと融合した、チャパゲッティの名で売られている。
インスタント麺の中でも、広く人気を集めるロングセラー。
韓国では辛ラーメン並みのネームバリューがある。
新村の「シンゲッチ」ではこのチャパゲッティもアレンジ。
溶き卵とスライスチーズを加えて調理してくれるのだ。
名前はシンゲッチと同様に、チャゲッチと名付けられている。
次回はこのチャゲッチを師匠にすすめてみたらどうか。
シンゲッチよりは、喜んでもらえる確率が高いはずである。
何故そう思うのか。
ふっふっふ。
それは本を買って読んで頂ければわかるのだ。
おや、いつの間にか。
冒頭だけでなく、全体が宣伝になってしまった。
<おまけ>
メルマガに登場したお店データ
店名:福盛閣(ポクソンガク)
住所:ソウル市西大門区滄川洞31-8
電話:02-392-1560
HP:なし
<お知らせ>
チャジャンミョンの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『魅力探求!韓国料理』は11月30日発売予定です。
書店、地域によって多少、並ぶ時期は前後するのでご注意ください。
出版社は小学館。価格は1575円(税込)です。
本の表紙写真や、詳細についてはこちらをご参考ください。
韓食日記 11月30日『魅力探求!韓国料理』発売!
http://koriume.blog43.fc2.com/blog-entry-310.html
アマゾンなどでも好評予約受付中です。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4093103984/
<八田氏の独り言>
読むとお腹が減ってくる本です。
校正作業中はグーグーお腹が鳴って困りました。
コリアうめーや!!第137号
2006年11月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com