コリアうめーや!!第127号
<ごあいさつ>
6月15日になりました。
毎日W杯漬けの生活をしています。
日本は初戦を落としてしまいましたが、
韓国は見事に初戦勝利を収めました。
これから続く2戦目、3戦目。
さらなる奮起を期待したいと思います。
そして日韓以外の試合も注目のカードが満載。
これまでの試合はメキシコ対イラン、
ドイツ対ポーランドが面白かったですね。
時間帯がどうしても深夜になりますが、
4年に1度の祭典を目一杯楽しんでいます。
そして、今号のコリアうめーや!!も、
W杯に向けてじっくり温めた企画。
この話を書くために、実に4年待ちました。
コリアうめーや!!第127号。
練りに練った、スタートです。
<韓国のカレーと真正面から向き合う!!>
4年に1度のサッカーW杯が始まった。
韓国のカレーと真正面から向き合う時が来た。
なんのこっちゃわからないような出だしだが、
ともかくも問題は韓国のカレーについてなのである。
韓国のカレーは韓国料理界の深い闇。
「カレー」でも、「カレーライス」でもなく、
あえて「韓国のカレー」と表現されるこの料理。
コリアン・フード・コラムニストとしては、
なるべくなら避けて通りたい負の部分である。
僕が韓国のカレーと出会ったのは1999年。
留学生として韓国に行ったばかりの頃だった。
寄宿舎近くにある食堂で昼食としてカレーライスを食べ、
強い衝撃を受けたことを鮮明に覚えている。
韓国のカレーはいわゆるインド風ではなく、
汁にとろみのついた日本のカレーに近い料理である。
ルーが黄色っぽく、レトルトの甘口カレーのように見えた。
「もむもむもむ……ん、んんん!?」
口にした瞬間、広がったのはなんとも微妙な味。
粉っぽい食感で、全体的に味が平べったい。
カレーならではの刺激や香りといったものが乏しく、
何を食べているのか、わかりにくい味だった。
「な、なんだこのカレー……」
改めてよく味わってみても、味の全体を把握できない。
子ども向けの甘口カレーをさらに水でのばしたような味。
どこか寝ぼけたような、ぼんやりした味であった。
辛さがない。刺激がない。香りがない。味がない。
僕は戸惑いつつもそのカレーを最後まで食べ、
なんだか納得のいかない気分で店を出た。
2度目に食べたのは友人との旅行中であった。
僕らは親しい仲間で郊外のコンドミニアムに出かけた。
日本ではコンドミニアムというと贅沢なイメージがあるが、
韓国だと逆にホテルよりも割安な宿泊施設とのイメージだ。
調理設備が整っているので自炊をすることもできる。
みんなで楽しく遊びつつ、食費も浮かせられるのだ。
このとき僕らが作ったのが韓国のカレーであった。
友人との共同作業によって、僕はさらなる衝撃を受けた。
中でも特に印象的だったのが以下の4点だ。
1、カレールーは固形でなく粉末である
2、カレーの粉末は鮮やかな黄色をしている
3、ジャガイモの皮をむくと怒られる
4、カレーに豚バラ肉は入れない
1と2はカレーのルーについてだが、
粉末というのは、いわゆるカレー粉ではない。
原料にはしっかり小麦粉を含んでおり、
スープに溶かしてとろみが出るのは固形と同じだ。
色はターメリックが多いのか、かなり黄色い。
日本のカレーが茶色、またはコゲ茶色なのに比べると、
見るからに平和で穏やかな色をしている。
食欲をわしづかみにする、あの戦闘的な雰囲気がない。
3と4はカレーに関する固定観念であろう。
すべての韓国人に共通することかはわからないが、
少なくともその場では全員一致の意見であった。
僕がジャガイモの皮をシャリシャリむいていると、
「なにしてんの! 実がなくなっちゃじゃない!」
とひとりの女の子が飛んで来た。
僕としてはごく普通にむいていたつもりだったが、
友人の目にはおかしな行動に映ったらしい。
「貸しなさい。こうするのよ!」
と言いつつその女の子は包丁の刃を立て、
ジャガイモの皮をザシザシとこすり始めた。
皮をむくというよりは、皮をこそげとる感じ。
なるほど。確かにそれなら実はなくならない。
僕も新ジャガであればそのようにもむくが、
普通のジャガイモは皮をむくのが普通だと思っていた。
だが、それは日本の常識で韓国とは違うらしい。
4の豚バラ肉についてはさらに不思議だった。
コンドミニアムにはスーパーが併設されており、
僕らはそこであらかたの買出しを行った。
だが唯一、カレー用の肉だけが売っていなかったのである。
「カレー用の肉がない!?」
「うーん、どうしようか……」
もめている韓国人たちを見ながら、
僕は焼肉用として売られている豚バラ肉を発見した。
別にカレー用の肉にこだわらなくともよいはず。
「これを入れたらいいじゃない」
と僕は軽い気持ちで提案した。
すると、韓国人からすごい反応が返ってきたのだ。
「豚バラ肉をカレーに入れる!?」
「アホなことを言うな。それは焼いて食べる肉だ」
「カレーにはカレー用の肉があるだろう!」
韓国では豚バラ肉というと焼肉のイメージが強い。
値段が安く庶民的な焼肉として人気がある。
だが、カレーに入れるという発想はないようだ。
日本では豚バラ肉のカレーも普通に存在すると思うが、
彼らの勢いは「とんでもない!」という雰囲気に満ちていた。
「韓国には韓国なりのカレーがあるんだなあ」
ということを、僕はこれらのやり取りから学んだ。
このときのカレーはみんなで食べたので美味しかったが、
ぼんやりとした、つかみどころのない味は同じであった。
最近では韓国に関する情報も増えており、
韓国のカレー事情についてもだいぶ知られている。
韓国に行ったり、あるいは住んだことのある人なら、
自ら食べずとも見聞きしたことがあるだろう。
「韓国のカレーはどうもあまり美味しくない」
というのが日本人の大多数が持つ印象だと思う。
もちろん色々好みは分かれるだろうし、
最近は美味しいカレーを出す店もわずかだが増えている。
それでも全体的な評価は極めて低いのが現状。
韓国人であってもこちらのほうが口に合うと、
日本のカレーを好んで食べている場合が少なくない。
と、ここまで書いて、これからがやっと本題である。
今回のテーマは韓国のカレーに真正面から立ち向かうこと。
韓国料理を愛するものとして、この現状は実に悲しい。
なんとかもう少しカレーを取り巻く状況が変わらないものか。
魅力的な料理がたくさんある韓国なのだから、
ちょっとしたきっかけでもっと美味しくなるはずだ。
現に同じような評価を受けていた韓国のコーヒーは、
スターバックスなど外資系のコーヒーショップが多数でき、
かつての絶望的状況から大きく変貌を遂げている。
「韓国のコーヒーはどうもあまり美味しくない」
という意見は数年前まで頻繁に聞かれたが、
最近では外資系の店が増えたおかげで聞く頻度が減った。
コーヒーに対する欲求がある程度満たせるようになったからだろう。
では、韓国のカレーはどうしたらよいのか。
今回はその具体案として、友人H氏の提案を試してみたい。
かつてホームページの掲示板を通じて出された意見。
ちょうど前回のW杯日韓大会が終了する頃であった。
友人H氏は韓国のカレー問題に対し、
W杯における韓国の印象から次のようなアイデアを出した。
以下はH氏による書き込みの引用(一部略)である。
やっぱり、真っ赤なレッドカレーなのではないでしょうか。
タイにもレッドカレーがありますが、韓国のレッドカレー。赤い悪魔カレー。
具も赤、ルーも赤。ついでにご飯も赤いご飯を使う。
具の候補にはニンジン、赤唐辛子、トマトなんかも入れてみよう。
辛さはお好み。こんなのどうですかねぇ??
僕はこれを見た瞬間、脳天に稲妻が落ちた気がした。
まさにこれこそ、韓国らしさを凝縮したカレーではないか。
韓国料理といえば唐辛子を多用した赤さ辛さが特徴。
その特徴を存分に取り入れ、しかも名前が「赤い悪魔カレー」。
W杯時に壮絶な熱狂を生み出した代表チームのサポーター、
「赤い悪魔(プルグンアンマ)」を冠したカレーだ。
ソウル市庁前に集結したサポーターの姿は日本にも中継され、
テレビを通じてその迫力を多くの人が目にしたはず。
真っ赤に染まったあの迫力をカレーの中に投入できたら、
それは韓国のカレー事情を根底から覆すことになるだろう。
「これはぜひともチャレンジせねばならない!」
そう決心した僕は、虎視眈々とタイミングを待った。
もちろんそのタイミングとは、再度ソウル市庁前が赤の洪水で埋まる日。
W杯ドイツ大会が開催される、まさに今この瞬間のことである。
いよいよ時は満ちた。
今回僕が用意した食材は以下の通りである。
ニンジン、アーリーレッド、赤パプリカ、赤唐辛子(生)、
トマト、牛赤身肉、粉唐辛子(細挽)、赤米
アーリーレッドというのは紫タマネギのこと。
色は紫であるが、名前がレッドなので採用した。
やはりカレーにタマネギは欠かせない。
同じくジャガイモもカレーには必須の野菜であるが、
赤いジャガイモが見つからなかったので断念した。
そしてポイントとなるのはやはり赤米であろう。
ちょうど友人からもらった赤米が手元にあった。
韓国でも赤米、黒米を入れたごはんはよく食べており、
食堂などでも白飯の変わりに赤いごはんが出る。
この赤いごはんを用い、全体を赤で統一するのだ。
同時にカレールーも極力赤くしなければならない。
日本のものを使うと、全体が茶色になってしまうので、
ここはやはり韓国のカレーを使用するのがよい。
黄色い粉末に細かく挽いた粉唐辛子をどっさり加え、
全体がオレンジ色になるまで混ぜ合わせる。
これで色を赤くするとともに、辛さと刺激をプラスできる。
作業的には普通のカレー作りと同じ。
野菜と肉を炒めたのちに水を適量注ぎ、
そこに唐辛子を混ぜた粉末カレーを加えるだけである。
味見をしてみると、確かに辛さは補えたが、
うまみの部分も欠けるようなのでブイヨンなどで補った。
出来上がりの見た目はまさに「赤い悪魔カレー」。
極限まで赤を追求し、味も舌にビリビリくるほど激辛。
食べると同時に、全身からドッと汗が噴き出した。
ところがこれを食べてみるとかなりいける。
「うおお、こ、これはうまい。辛うまい!」
大量に入れた粉唐辛子もさることながら、
刻んで入れた生の赤唐辛子がきいているようだ。
激辛カレーらしい、乾いた日向の味がする。
「辛ラーメンならぬ、辛カレーもいいかもしれんな!」
食べながら色々なアイデアも生まれてくる。
唐辛子の辛さが強いのでキリッとした感じがいい。
赤い米との相性、見た目の統一感も悪くない。
赤さ、辛さ、すべてにおいて韓国らしいカレーとなった。
「赤い悪魔カレー」は予想以上の出来であった。
今後は韓国のカレー革命を目指すにあたり、
この「赤い悪魔カレー」の普及に努めたいと思う。
韓国のカレーよ赤くなれ!
そしてカレーの新境地を切り開くのだ!
<お知らせ>
赤い悪魔カレーの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
今年から新たにブログを始めています。
日々食べている韓国料理の記録を残しています。
http://koriume.blog43.fc2.com/
<八田氏の独り言>
韓国のスパゲティ問題にも取り組みます。
美味しくするアイデアがあったら教えてください。
コリアうめーや!!第127号
2006年6月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com