コリアうめーや!!第97号
<ごあいさつ>
3月15日になりました。
春らしく、寒さもだいぶ和らいできましたが、
花粉がビシバシ飛んでいるのだけはいただけません。
目がシバシバして、鼻はグズグズ。
ティッシュの箱が片時も手放せない。
本当につらい今日この頃です。
って、僕はまだ軽いほうなんですけどね。
花粉症のひどいかた。本当にお気の毒です。
頑張ってこの時期を乗り切ってください。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
前号で予告したとおり韓国に行ってきました。
3月5日から11日までの7日間。
ソウル、釜山と回って仕入れてきたネタを、
新鮮なうちにお届けしたいと思います。
コリアうめーや!!第97号。
産地直送の、スタートです。
<韓国の鉄火場ごはんを探せ!!>
福岡国際空港から飛行機に乗り込み、
シートに座ったところで、衝撃的事実に気付いた。
「あ、ATMでお金下ろすの忘れた!」
朝いちばんの飛行機というのが、災いしたのだろう。
バタバタ慌てたせいで、お金のことをすっかり忘れていた。
「くわぁ、現金いくらあったかなぁ……」
おそるおそる財布を開いてみる。
樋口一葉様が1人。野口英世様が3人。
そして福沢諭吉大先生が……。
「あ、あれ? 福沢大先生がいらっしゃらない」
なんと、1万円札が1枚もなかった。
慌てて小銭までしっかり数えてみる。
だが、いくら数えても、9千円にも満たない。
ソウルから、釜山へも移動して6泊7日。
宿泊費などはカードに頼るとしても、
ここまで現金がないというのは常識外である。
韓国の銀行口座に、ある程度の預金は残してあったが、
それも余裕のある残高ではないはずだった。
「ぐわわわ、これはまずい。なんとかせねば!」
どうする。どうする。どうする。
「むむむむむむ、よし! アレだ。アレしかない!」
ということで、僕が、韓国到着後にまず訪れたのがここ。
果川ソウル競馬場!
そう、資金が乏しいのならば、増やせばよいだけの話。
万馬券でも一発ぶち当てれば、贅沢旅行も夢ではない。
そして、競馬場行きには、もうひとつの魅力があった。
ギャンブルといえば、食べ物の話がつき物。
競馬場なら、珍しい食べ物ネタも拾えることだろう。
鉄火巻きの語源は、ばくちを打つ場所の「鉄火場」からきており、
サンドイッチは、トランプ好きの伯爵がゲーム中に考案したもの。
語呂合わせで、カツ丼を「勝丼」と表記したり、
するめを「あたりめ」、すりごまを「あたりごま」と呼んだりもする。
ばくち打ちはとかく、ゲンにこだわる。
韓国にどんなゲンかつぎがあるかはわからないが、
きっと韓国なりの、鉄火場ごはんがあるに違いない。
競馬場で資金を増やし、メルマガのネタも拾うことができる。
「こんなにも素晴らしいプランがあるだろうか!」
競馬場に向かう僕の足取りは、ペラペラの財布よりもはるかに軽かった。
さて、果川ソウル競馬場である。
この競馬場には、なんと外国人専用室があり、
パスポートを見せるだけで、4階の眺めのいい席から、
ゆったりと競馬を見ることができる。
さっそく、その4階に突撃してみると、
そこでは世界各国のばくち打ちが韓国競馬に興じていた。
顔ぶれを見ると、アジア系、中東系、西洋系……。
それぞれが思い思いの言葉で、自分の賭けた馬を応援している。
韓国人も少し混じっており、なんだか独特の雰囲気だった。
「むぅ、この雰囲気に呑まれてはいけない……」
なにしろ、こちとらほぼ文無しの状況。
負けて帰ることは、絶対に許されないのだ。
こういうときは、まず気持ちを落ち着けるに限る。
あせって勝負に出てはいけない。
じっくりと様子を伺い、自分なりのタイミングを見つけるのだ。
ということで、まずは馬券勝負を後回しとし、
鉄火場ごはん探しから、始めることとした。
まず、ざっと構内をめぐってみる。
目に付いた食べ物はこんな感じ。
1、のり巻き、餃子などの屋台系軽食メニュー
2、チゲ、ビビンバなどのいわゆる普通の食堂メニュー
3、ビュッフェ(バイキング)形式の食堂メニュー
4、袋入りの菓子パン、サンドイッチ類
5、自動販売機の缶ジュース
3番目のビュッフェ形式というのは、副菜を自由に選べる食堂のこと。
魚の煮物や、ナムルなどの料理が、大皿にたっぷり用意されていた。
食堂は建物内のあちこちにあり、料理も豊富だが、
鉄火場的なメニューは、特に見当たらないようだった。
「的中チゲ」とか、「万馬券ビビンバ」を期待したが、
そんな面白いネーミングの商品は、どこを探しても見つからなかった。
自力で探して見つからないので、
外国人専用室に戻って、受付のお姉さんに尋ねる。
「あの、競馬場で特に食べるものといったら何がありますか?」
「は? そ、それは食堂をお探しということですか?」
質問の仕方が悪かったようだ。
「あ、えーと、競馬場でだけ食べるような特別な食べ物は……」
「特別な食べ物???」
お姉さんは目をまん丸にしながら、
僕の言わんとすることを必死で理解しようとしている。
なんだか、ややこしいお客さんになってしまったようだ。
「例えば、日本ではトンカツのカツが、勝つと同じ発音で……」
「はあ……」
「トンカツを食べると、勝負に勝てると言われていてですね……」
「ええ……」
わかりやすく説明しようとするほど、話が複雑になる。
こういうときの、ドツボ感はなんともいえない。
「と、とにかく、食べると運がよくなるような料理はありませんか?」
「うーん……」
僕の説明は、あっちこっちに弾けまくった挙句、
結局、なんだかよくわからない形のまま終わった。
お姉さんは、僕を不思議そうな目で眺めたまま、
「韓国の食堂にはそういった料理はないですねぇ」
と、申し訳なさそうに言った。
「え、まったく何もないですか?」
今度は僕のほうが目を丸くする番である。
何もないとなると、この鉄火場ごはん企画が没になってしまう。
「じゃ、じゃあ、普通はみんな何を食べているのでしょう?」
「うーん、トッポッキや、スンデなんかを食べますね」
トッポッキは餅を甘辛く炒めた料理。スンデは韓国式の腸詰め。
どちらもありふれた屋台料理で、間食に食べる料理の代表格だ。
「それは何か特別な意味があるんですか?」
「ええ、少しでも予想に集中しようと、手軽に食べられるものを……」
なるほど。それは確かに道理である。
だが、それでは話のネタにならない。
「で、では、何かオススメできる料理はないでしょうか?」
「それは、お客様がお食事をなさるということですか?」
「はい。この競馬場を代表するようなおいしい料理を……」
お姉さんは、天井を眺めながら「うーん」と唸った。
すぐ隣で話を聞いていた、別のお姉さんも同様に悩んでいる。
「では、ピビンプルベクはいかがでしょう?」
「ピビンプルベク!?」
初めて耳にする料理名だった。
これまでずいぶん韓国料理を食べてきたが、
ピビンプルベクという料理は、聞いたことがない。
「そ、それはどんな料理でしょう!?」
「うーん、牛肉をごはんと混ぜて食べる辛い料理ですね」
なるほど。ビビンバに近い料理ということか。
聞いたことのない料理なら、競馬場名物と言ってもいいかもしれない。
少なくとも、他ではめったに食べられない料理。
語呂や由来がなくとも、それならネタになりそうだ。
「そ、それはどこで食べられますか?」
「5階の中央食堂に行けば食べられます」
「ありがとうございましたっ!」
僕は、答えを聞くなり、5階へと急いだ。
中央食堂はすぐに見つかった。
新館と旧館の中央にあるから中央食堂。
そのものズバリのネーミングである。
店頭で食券を買い、カウンターに出すと、
すぐ目の前に、ピビンプルベクらしき料理がトンと置かれた。
加えて、小さなチゲ、小皿に盛ったキムチが2品ついた。
ピビンプルベクの第一印象。
白飯にそぼろ状の牛肉が乗り、真っ赤なタレがかかっている。
ビビンバというより、牛そぼろごはんという感じだ。
白飯の隙間からはちぎったサンチュも見える。
ごはん、牛肉、サンチュという組み合わせは、
どこか焼肉的で、相性がよさそうだ。
タレが全体に馴染むよう、スプーンでかき混ぜていく。
すると、器の底から、豆モヤシのナムル、大根の千切りが出てきた。
野菜も加わって、ぐっとヘルシーな印象になる。
全体にタレが行き渡ったところで、
最初の一口を味わってみることにする。
牛肉とごはんが混ざり合ったあたりにスプーンを突き立て、
ガバッと、たっぷり口の中に放り込む。
ほんのり甘い牛肉の味。タレはけっこうなピリ辛。
「おおっ、う、うまいっ!」
ビビンバのようであるが、ビビンバとも少し違う。
牛肉がたっぷり乗っているので、牛肉色がとても濃い。
火が通っているので、ユッケビビンバとも違う。
「ほほう、なかなかやるじゃないかピビンプルベク」
しかし、なぜ、これがプルベクと呼ばれているのだろう。
しばらく、食べながら考え込んでいると、
やがて、コツンとぶつかったように答えが閃いた。
「あ、プルコギのプルか!」
下味をつけて焼いた牛肉のことをプルコギと呼ぶ。
プルベクのプルは、プルコギのプルなのだ。
ならば、ベクは白飯の白を意味する言葉だろう。
「ピビン、プルコギ、ペクパン」
これを省略して、ピビンプルベク。
要は、プルコギビビンバの別称なのだ。
韓国料理を代表する2つの料理が、競馬場にて見事合体。
それが、ピビンプルベクの正体だった。
「よーし、これを韓国の鉄火場ごはんに認定しよう!」
これといった鉄火場ごはんが見つからないのなら、
鉄火場ごはんの称号は、空位であるということ。
なら、早いもの勝ち。認定してしまったもの勝ちである。
韓国の鉄火場ごはんは、ピビンプルベクに決定!
ぱちぱちぱちぱち、ぱちぱちぱちぱち。
そう決め込んだ僕は、晴れやかな気持ちで
ピビンプルベクをかっこんでいった。
ネタ探しに成功した今、後は馬券勝負に勝つだけ。
食事を終えて、僕は4階の外国人専用室に戻った。
「よっしゃあ、馬券でも勝つぞぉ!」
と、5レースほど勝負した結果……。
見事、10万ウォンほど負けましたとさ。
読者みなさま、どっと笑い。僕、わっと泣き。
<お知らせ>
ピビンプルベクの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
『目からウロコのハングル練習帳』重版出来!
新学期に向けて、さらに売り上げが伸びているようです。
書籍刊行情報
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_000.htm
表紙紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_008.htm
内容紹介ページ
http://www.koparis.com/~hatta/news/news_009.htm
<八田氏の独り言>
という訳で、大赤字の韓国旅行でした。
どうやって乗り切ったかは一切秘密です。
コリアうめーや!!第97号
2005年3月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com