コリアうめーや!!第53号
<ごあいさつ>
まだ5月も半ばだというのに、
Tシャツ1枚でも平気なくらい暖かい日があります。
夏みたいだなあ、なんて汗をふきふき呟いていると、
日が沈んでから途端に涼しくなったりもします。
いい天気が続くなあと喜んでいたら、
夜になっていきなり雨が降り出してみたり。
とかく天気の読みが難しい今日この頃です。
雨なら徹底的に毎日雨という梅雨。
晴れなら徹底的に毎日晴れという夏。
そんなきっぱりとした季節がもうすぐ訪れます。
その終わりのない単調さを考えたら、
このめまぐるしい天気も趣があるのかもしれません。
さて、今号のコリアうめーや!!ですが、
韓国料理には欠かせないあの食材が登場です。
身体に元気を与える魔法の香り。
コリアうめーや!!第53号。
臭いほとばしるスタートです。
<激臭の予感、恐怖のニンニク釜飯見参!!>
「丹陽に行くとニンニク釜飯があるよ。」
なんて魅力的な話を聞いて、黙っていられるヤツがいるとしたら、
俺はそいつのことを、人間じゃないと断言するだろう。
これほどまでに心を揺さぶられる料理名が、他に一体いくつあるだろうか。
日本で釜飯といったら、まずニンニクは入っていない。
山菜だとか、栗だとかは入っているが、ニンニクはありえない。
日本と比べて、はるかに多くのニンニクを消費する韓国であっても、
釜飯にニンニクが入らないのは同じことである。
韓国語で釜飯のことはトルソッパプという。
トルソッが石で作った釜のことで、パプがごはん。
日本の釜飯とは少し違うが、釜で飯を炊くのは一緒だ。
米のほかに、豆や穀物の類をたっぷり入れて、
場合によってはナツメ、高麗人参などの漢方食材も入れる。
こいつがまた栄養満点で、しかもうまい。
だが、ニンニク釜飯というのは初耳だった。
その情報を友達から教えてもらったとき、
俺は一発で「むちゃくちゃ食いてえっ」って思った。
だって、ニンニク釜飯だよ。ニンニク釜飯。
ニンニク釜飯と、あえて名乗るという以上、
それはもう、うんざりするくらいニンニクがゴロゴロしているのだろう。
「はーい、ニンニク釜飯だよお。」
と、店のおばちゃんが、テーブルまで運んでくる。
俺はそれを見て「おほー、きたきた」なんて呟きながら、
おもむろに釜飯のフタを取る。
ぶわあっと立ち上る湯気に、鼻をくすぐるニンニクの香り。
湯気の向こうには半月状のニンニクがゴロゴロ。
「どひゃー、飯がニンニクで埋ってるよお。」
なんて、浮かれた声をあげてみたりなんかして。
いやあ、こんなにたくさんのニンニクを食べていいのかなあ。
精力ついちゃうなあ。口臭もすごいだろうなあ。
人の大勢いるところにいって、
「ぐはーっ」ってやったら、みんなバタバタ倒れるよな。
炎天下の朝礼で校長先生が長話をするような感じ。
あっちでバタッ、こっちでもバタッ。
先生大慌て、保健室大混雑。
ニンニクをもりもり食ったら、当然そうなるよなあ。
いやあ楽しみだなあ。はやく食べたいなあ。
てなことを考えて、俺は丹陽という町に飛んだ。
丹陽は韓国の中央部に位置する田舎町。
「たんよう」とか、すっとぼけた読み方をしてはいけない。
丹陽は韓国語で「タニャン」と読む。
韓国随一のニンニク産地。タニャンだ。
丹陽はニンニクと洞窟の町として有名である。
町のド真ん中には「ニンニク市場」があり、
旬ともなれば、市場中がニンニクであふれ返る。
そしてここ丹陽のニンニクは、ただのニンニクではない。
特に「6片ニンニク」と呼ばれているのである。
ゲンコツのように大ぶりなニンニク。
皮をバリバリ剥くと、ツヤツヤの身が姿を見せる。
むっちりとしてて肉厚の身だ。
普通ニンニクといえば、10数片は入っているものだが、
丹陽のニンニクは、きっちりきっかり6片しか入っていない。
律儀に、頑固に、江戸っ子気質に、6片ニンニクといったら6片なのだ。
普通10数片入るゲンコツ大ニンニク。
そこに6片しか入っていないということは、
1片が非常に大振りだということである。
味がよく、栄養価が高く、身がしっかりしている。
丹陽の6片ニンニクは、韓国最高峰のブランドニンニクなのである。
その6片ニンニクを使ったニンニク釜飯がある。
俺は丹陽に着くと、脇目も振らずニンニク釜飯の店を目指した。
メニューを開くと、ニンニク釜飯定食の文字が目に飛び込んだ。
ニンニク釜飯定食。値段は1万ウォンである。
すぐさまこいつを注文すると、
「釜飯なので炊きあがるまで20分少々かかります。」
との答えが返って来た。
待つよ。あたりまえじゃないか。待つよ、そのくらい。
俺はハエのように手のひらを胸の前でこすり合わせながら、
ヨダレをジュクジュクとすすってニンニク釜飯の登場を待った。
「お待ちどうさま。」
と、俺の前にニンニク釜飯が運ばれてきたのは、
手をこすり合わせすぎて、シワがすべて消えてなくなり、
占い師泣かせの手になってしまったころだった。
「来たー!!」
と俺はにんまり顔になって、釜飯のフタを開ける。
そうだ。ついに来たのだ。この瞬間がやってきたのだ。
ぶわあっと立ち上る湯気に、鼻をくすぐるニンニクの香り。
湯気の向こうには半月状のニンニクがゴロゴロ。
うん? ゴロゴロ……?
ゴロゴロ……。ゴロゴロ……。
ゴロゴロ……。ゴロゴロ……。
ゴロゴロ……。ゴロゴロ……?
って、ええっ?
な、な、な、ぬわんと。
ニンニクはわずか2かけしか乗っていないではないか。
紫色に炊かれたきれいなごはん。
栗、カボチャの種、ナツメ、アズキなども乗っている。
ここまではいい。普通に豪華な釜飯である。
だが、いくら目を凝らしてみても、ニンニクは2かけしか見当たらない。
まるでウルトラマンがにっこりと笑ったかのように、
白いニンニクが2かけ背中をむけている。
おかしい。ゴロゴロニンニクはどこへ行ったのだ……。
「そうか。中に埋もれているのだな。」
頭上の電球をぴっかりと点灯させた俺は、
スプーンを手にとってわしわしとかき混ぜてみた。
下からほじくるようにして全体を攪拌してみる。
「うん? おかしいな。」
俺は底のあたりまで念入りにほじくってみた。
「あれ? どうしたのかな。」
俺はこびりついたオコゲまでガリガリと削ってみた。
「え、え、え、え……?」
俺は穴を開けんばかりの勢いで、力を込めて掘ってみた。
「な、ない……。」
ないのだ。ニンニクはわずか2かけですべてであった。
丹陽のニンニク釜飯。
6片ニンニクのニンニク釜飯。
大量のゴロゴロと思われたニンニク釜飯。
口臭がすごいだろうなと心配していたニンニク釜飯。
「ガムを食べれば大丈夫かな。」
「牛乳も飲んだほうがいいかな。」
と、対策をも考えていたニンニク釜飯。
「食べすぎて精力有り余っちゃったらどうしようかな。」
と、いらぬことまで考えていたニンニク釜飯。
「ゆ、夢、破れたり……。」
せめて6片ニンニクという名前なのだから、
6かけくらいは入っていてもよかろうに……。
わずか2かけ、たった2かけ、ああ2かけ……。
悲しみの中、俺はニンニク釜飯をつついた。
ごはんとともに釜で炊かれたニンニクは、
ホクホクと甘く、しみじみとおいしかった。
<おまけ>
6片ニンニクは韓国語でユッチョクマヌルといいます。丹陽のニンニク市場は6月になると、6片ニンニクであふれ返るとのことです。今年の1月に行ったとき、市場の方から6片ニンニクについて色々な話を聞きました。メルマガの本文では「きっちりきっかり6片しか入っていない」と書きましたが、場合によっては数が前後することもあるそうです。この6片ニンニクは日本にもあり、日本ではホワイト6片種との名前で知られています。このホワイト6片種を手に入れて、今度こそニンニクゴロゴロのニンニク釜飯を作ってみようかと考えています。
<お知らせ>
ニンニク釜飯の写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみてください。
http://www.koparis.com/~hatta/
<お知らせ2>
「韓国料理好きに100の質問」という企画を行っています。
回答者を広く募集しておりますので、よかったらご協力ください。
http://www.koparis.com/~hatta/question/question_000.htm
<八田氏の独り言>
21日から韓国に行きます。
ビビンバをテーマに2週間ほど行く予定です。
コリアうめーや!!第53号
2003年5月15日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com