コリアうめーや!!第22号
<ごあいさつ>
2月になりました。
暑くなったり、寒くなったり、不安定な天気が続きます。
暖かい春はいつ訪れるのでしょうか。
早く花見で酔っ払う相談でもしたいものです。
さて、コリアうめーや!!第22号。
ひとつしまったなあ、と思ったのが、
配信日である今日が2月1日だということです。
毎月1日、15日配信のコリアうめーや!!ですが、
今号だけを例外として、2日配信にすると、
2002年2月2日の第22号という、
なんとも縁起のいい2並びになるのです。
うっかり遅れたフリして、ずらしてしまおうかとも思いましたが、
締め切りはやはり守らねばならぬと、断念いたしました。
もう少し早く気付いていればなあ。
前の号でお知らせでも出しておいたのに。
若干悔しさは残るものの、
よく考えたらそんなにウジウジこだわることでもありません。
スパッと切り替えて、コリアうめーや!!第22号。
前だけをしっかり見据えてスタートです。
<スンドゥブチゲと卵>
スンドゥブチゲは卵なくして語れない料理である。
「卵なくしてスンドゥブなし」とはベルギーの歴史家アンリ・ピエールの言葉であるが、
まさにスンドゥブチゲの真実を120%表している至言といえる。
スンドゥブチゲ。
それは韓国で最も日常的かつ大衆的に食べられる料理のひとつである。
食堂に入って、ええーと、何を食べようかなあ……。
キムチチゲは昨日食べたし、肉を食べる気分でもないし。
うーん、じゃあスンドゥブチゲでいいや。
という、「でいいや」的な料理であり、
どこにでもある、値段が手ごろ、ときどき無性に食べたくなる、という3拍子が揃った、
まさに庶民的、ともすれば吉野家の牛丼的な感覚の料理ともいえる。
「スンドゥブ」とは枠に入れて押し固める前の豆腐のことを指し、
普通の豆腐に比べ、ツルツルとなめらかでフルフルと柔らかいのが特徴。
このスンドゥブを入れて辛く煮込んだチゲのことをスンドゥブチゲというのだ。
スンドゥブのほかにも、豚肉、アサリ、長ネギ、青唐辛子などが具として入り、また最後
に生卵がひとつ落とされる。ニンニク、唐辛子、塩、醤油などで辛く味をつけ、さらにゴ
マ油を数滴たらして香ばしさを演出する。豆腐の柔らかい食感、豚肉やアサリから出た濃
厚な味のスープ、いっしょに食べるごはん。もう俺の人生、一生スンドゥブチゲでかまわ
ない、というくらい心の底からうまいと思う。
また、スンドゥブチゲは食べていて非常に楽しい。
豆腐のあまりの柔らかさに噛まずにテュルリと丸飲みしてしまい、食道が焼け焦げたので
はと錯覚するほど熱い思いをして大騒ぎしたり、具としてひとつふたつ紛れ込んでいる、
殻付きアサリの身がなかなか外れず、夢中になってハシでほじくり返してみたりと、食べ
ている間じゅう退屈がない。そして何よりも卵。最後に落し入れられた卵をどう味わうか
という楽しみがあるのだ。
注文したスンドゥブチゲが食卓におかれる。
グツグツと煮えたぎったスープの真ん中に浮かぶ黄色い卵。
ここであなたは卵にどう対処するのかという、究極の選択をせまられるのだ。
1、卵を突き崩し、かき玉状態にして食べる。
2、卵はいったんそのままにして食べ始め、ほどよいところで具として食べる。
さあ、どうだ。どうだ。悩んでいるヒマはないぞ。
もたもたしているとあっという間に卵に火がとおり、1の選択肢は不可能となる。
どうする?どうする?あなたはどうする?
この卵の食べ方は、月見うどんに相通ずるものがある。
東海林さだおは著書『鯛ヤキの丸かじり』の中で、きつねうどんの中に入れた生卵をいつ
食べるのかという問題に対し、詳細に検討を試みている。東海林さだおは、当初この卵を
食べる方法として、そのまま飲みこむ、突き崩すの2点しか考えられないとしながら、結
論部分で「自然に破れる」という隠された第3の食べ方を発見し、問題を解決に導いてい
る。これは当然スンドゥブチゲにも応用が利くように思えるが、実はスンドゥブチゲはき
つねうどんよりもスープが高音である為に、自然に破れる以前に固まってしまうという意
外な弱点を抱えている。
しかし、八田氏はここで東海林さだおも考えなかった、
超法規的な手段をここに紹介してしまう。
突き崩さない。固まらせない。自然に破れもしない。
常識を超えた第3の選択肢が存在したのだ。
スンドゥブチゲにおける卵の食べ方その3。
スンドゥブチゲが出てきた瞬間に、すばやく卵をすくい出し、
横のごはんにのせ、卵ごはんにして食べる。これだ。
ごはんといっしょに食べないきつねうどんには100%不可能な食べ方である。
熱で活性化した卵をごはんにのせ、辛いスープと一緒に食べるとこれがまた、うまい!!
豆腐や他の具も一緒に載せてビビンバのようにかき混ぜて食べてもうまい。
重要なのは卵に火が通ってしまう前にすくい上げるということ。
卵は自身の重みで底に沈んでしまっていることも多く、その場合はまだグツグツあぶくを
吹き上げているスープの中にスプーンを指しこみ、卵を救出しなければならない。このと
き焦ると卵を突き破ってしまうし、モタモタしていると完熟卵になってしまう。あくまで
も手早く、手際よく、そして焦らず落ち着いて、卵の移動作業を行うのだ。
許せないのはテーブルに運ばれてきた時点で、すでに卵が壊れている時。
また昼時などの忙しい時間帯は、運んでくるアジュンマ(おばちゃん)がほかで注文をと
っていたりして、卵に火が通ってしまうというケースもある。1にするか、2にするか、
今日は3で食べようかなどとワクワクしているときに、これらのスンドゥブチゲが出てく
ると不機嫌極まりない。
スンドゥブチゲの卵が理想的な形で出てきて、
それをその時のフィーリングに合わせてきちんと食べられたとき。
スンドゥブチゲにおける本当の感動を味わうことができる。
「卵なくしてスンドゥブなし」といわれる所以だ。
なんだかんだ言って、スンドゥブチゲが一番恋しい。
日本に住みつつ、食べたいと思いをはせる韓国料理はたくさんあるが、
その中で、最も懐かしく、恋焦がれるのがスンドゥブチゲかもしれない。
小さな素焼きの器を火にかけてグツグツにしたチゲの中で、
小動物のようにふるえる白いスンドゥブの姿を思い浮かべると、
八田氏は、思わず空を見上げて、ひとつため息をついてしまうくらい切ない。
<おまけ>
韓国の北東部に位置する江原道江陵というところには、
きれいな海水を用いて作った豆腐というのがあるそうです。
その名を草堂豆腐(チョダントゥブ)。
ぜひ一度食べてみたいものです。
<お知らせ>
スンドゥブチゲの写真がホームページで見られます。
よかったらのぞいてみて下さい。
http://www.koparis.com/~hatta/
<八田氏の独り言>
「ねえねえ知ってた?今日って2並びなんだぜ!!」
という話を、明日してはいけません。
まだ22日というのが残っています。じっと我慢。
コリアうめーや!!第22号
2002年2月1日
発行人 八田 靖史
hachimax@hotmail.com